海外ライトノベル翻訳事情 中国本土編(5)

2012/05/29

何度か書いてきたように、台湾編および、中国本土編の調査にあたっては百元籠羊さん(http://blog.livedoor.jp/kashikou/)のお世話になっているのですが、先日百元さんからメールが来ました。このブログ連載記事について「中国オタクの知り合いと話をした」のだそうで、いろいろご指摘を受けました。

正直言って、私自身、中国本土編(3)(4)は「好き勝手な推測で書きすぎたかな」と思わっていたところでした。ああいうのは、その国の文化をよく知っている人間が書くべき事ですし、そもそも外国人が断定めいた書き方をするのは不遜というものでしょう。すっかり反省しておりますが、ともかくも、以下に百元籠羊さんからの指摘をお伝えしておきます。

まず、クィ・ヨニ『あいつ、かっこよかった』は、さすがにライトノベルの範疇に入らんだろうという指摘を受けました。少なくとも現在の中国では、韓流少女小説は「軽文学」に入れていないというのです。これは、私も山下論文を読みながら考え込んだ所でした。あの論文では、
・女子高生の一人称会話体で最後まで書かれている
・ビジュアルを重視したお洒落な装幀が受けた
・ 商業的に大成功した
ことなどから、「軽文学」のメルクマークとなった作品だとしているのですが、今の「軽文学=ライトノベル」の読者と重なっていないように、私には思えました。(で、言い訳がましく、そういうことも(3)では書きました。)百元さんも、それは「別系統」だとしています。台湾の「言情小説」と呼ばれる恋愛小説が90年代から本土でも人気になっており、そのファン層がある時期に韓流に流れたのであって、それとアニメやマンガのファン層が受け入れた「軽小説」は系統が違うのだと言うのです。

そして、中国本土の少女小説のリソースは、まだまだ小さいので、「軽小説」に投入されているのは香港や台湾のリソースなのでは無いだろうかというご指摘もいただきました。そもそも「中国本土のライトノベル市場はまだ形成されていない」のだそうです。

このあたりは、私も議論してみたい点は多々あるのですが、話が込み入ってくるのと、確たる資料やデーターを持ち合わせていないので、止めておきます。ただ、中国本土の話は、聞けば聞く程面白いですね。日本からの単純な文化輸出の話ではないのです。

それから百元さんの話では、日本のそっち方面の小説で最初に人気になったのは『銀河英雄伝説』だとのことでした。古参の濃いオタクには、これにやられてしまった人が結構伊多いのだとか。しかし、概してライトノベルは中国であまり見向きされないジャンルだったそうです。流れが変わったのは、「ハルヒ」「シャナ」「半分の月がのぼる空」あたりからで、「中国のラノベ事情に関しては、「ハルヒ」以前と以後で明確に空気もファンの層の厚さも変わっています」とのことでした。

貴重な証言として、ここに記しておきます。
(報告:太田)


ラノベ史探訪(16)-今、ふたたびの『ロードス島戦記』

2012/05/29

『ロードス島戦記』オンラインゲーム化決定!!


■「ロードス島戦記」 のオンラインゲーム、2012年秋サービス開始予定! (オレ的ゲーム速報@JIN)
■ゲームオン、「ゲームオンフェスティバル2012」を開催 ポータルサイトの一新と5つの新作タイトルを発表(GAME Watch)

「ロードス島戦記 -伝説の継承者-」は、 小説、テーブルトークRPG、アニメ、コミックスなど多岐に渡ってメディアミックス展開している「ロードス島戦記」のオンラインゲーム。これまでに「ロードス島戦記」についてはゲームオンによるオンラインゲーム化と、そのPCおよびモバイル向けの開発権、また全世界における運営権をゲームオンに許諾されることは発表されていた。会場では未だゲームの内容などは明かされなかったが、今後随時情報を発信していくという。サービス時期は今秋を予定している。

今日の昼間、こんなニュースを耳にしたのですが…私を含め「えーっ!!」と驚いた方は結構大勢いたのではないでしょうか。いやはや、まさかオンラインゲームとして復活してくるとは予想していませんでした(汗)

さて、久しぶりの更新となりました今回の「ラノベ史探訪」では、にわかに注目が集まった『ロードス島戦記』について、その始まりを(簡単ですが)ふり返ってみたいと思います。すでにご存知の方も多いかもしれませんが、最後までお付き合い頂けましたら幸いです。

『ロードス島戦記』。その登場は今から遡ること26年前。1986年のパソコンゲーム専門誌「コンプティーク」(角川書店)が舞台となりました。当時の「コンプティーク」ではパソコンゲームやファミコンゲームのRPG特集が頻繁に組まれるようになり、そこでは『D&D』(ダンジョンズ&ドラゴンズ)の影響が色濃い海外CRPG『ウルティマ』や、『ハイドライド』、『ザナドゥ』、『ゼルダの伝説』、『ドラゴンクエスト』などの国内CRPGが取り上げられていました。また、これら以外にもTRPGに関する紹介記事が散見されます。「クロちゃん」の愛称で親しまれた黒田幸弘氏の連載「クロちゃんのRPG講座」も、「RPG WORLD」という専用コーナーで1986年1月号から開始されていました。

「コンプティーク」から少し離れて、より大きな視点に立って当時の動向を考えてみると、ちょうどこの頃は1980年代後半のファンタジー・ブームが本格化し始める時期に当たります。この点については以前の記事に詳しく書いていますので、お暇があれば一緒にご覧下さい(ラノベ史探訪(7)-「角川文庫のファンタジーフェア」とは?)。

まさにそんな時、「RPG WORLD」でグループSNEによるTRPGリプレイ「ロードス島戦記」の連載が開始されたのです。そしてこの連載は大きな反響を生み、先に触れたファンタジー・ブームを加速させる一要因にもなっていきます。以後の躍進ぶりは皆様ご存知の通りです。


(「コンプティーク」1986年9月号表紙)


(「コンプティーク」1986年9月号目次 見開き①)


(「コンプティーク」1986年9月号目次 見開き② *赤枠部分が掲載コーナー)

記念すべき連載第1回目の扉絵が以下の写真になります。なお、連載第1回目の内容は、DM(ダンジョンマスター)がプレイヤーにゲームルールや世界観、キャラクター設定の方法などの基本事項を説明しており、TRPGを始めるための準備をリプレイした形式となっています。本格的なゲームのスタートは連載第2回目からですね。


(『ロードス島戦記』 episode1「旅の仲間」)


(連載第1回目に掲載されたキャラクター集合イラスト)

『ロードス島戦記』は、第1部が1986年9月号~1987年4月号まで、第2部が1987年6月号(5月号で企画発表)~1988年7月号まで、第3部が1988年9月号~1989年9月号まで、それぞれ「コンプティーク」に連載されました。そして連載終了までの3年間に、小説版やカセットブック、コンパニオンの出版、パソコンゲームの発売等々、多角的な商業展開がすでに始められています。ちなみに『ロードス島戦記』の連載終了後に始まったのが、引き続きグループSNEが手掛けた『漂流伝説クリスタニア』でした。

で、今回は『ロードス島戦記』のオンラインゲーム化というニュースもありましたので、上でも少し触れたパソコンゲーム化についてもう少し紹介したいと思います。ゲーム化の発表が行われたのは「コンプティーク」1988年4月号。連載開始から2年も経たないうちの発表とは驚かされますね。実際の発売は1988年9月(ハミングバードソフト)。内容については「コンプティーク」に連載された第1部と小説版第1巻のストーリーをミックスしていたようです。詳細はこちら(Wikipedia)を参照。


(「コンプティーク」1988年4月号のゲーム化告知記事 見開き①)


(「コンプティーク」1988年4月号のゲーム化告知記事 見開き②)


(パソコンゲーム版『ロードス島戦記 灰色の魔女』)

このパソコンゲーム化発表以降、「コンプティーク」ではゲームのプレイ画面紹介や攻略法の記事が掲載されるようになり、TRPGリプレイの連載とともに誌上で盛り上がりを見せていきました。今となっては誌面を見て想像することしかできませんが…当時このゲーム化告知を目にしていた方、そして実際にリプレイを読みゲームをプレイされた方、どのような感想を持たれたのでしょうか?もしよろしければコメントに感想などお寄せ頂けましたら幸いです。

最後に現在のオンラインゲーム化に話を戻しますが、「GAME Watch」の記事によると、スーパーバイザーに小説版の著者・水野良氏がクレジットされているとのことです。実際のゲームでは(小説版や数作出ているゲーム版などの)既存ストーリーを再現するのか、それとも全く新しく組み上げられるのかは分かりませんが、いずれにしろ今後の動向が気になります。で、稼動の折にはぜひとも『ソードアート・オンライン』のキリトさんにご登場頂いて、パーンとの新旧騎士(剣士)一騎打ちを所望。その横ではアスナとディードリッドが彼氏自慢でヒートアップし…と、妄想はこの辺にしておきましょう(笑)

僕たちの好きなロードス島戦記―全ストーリー&キャラクター徹底解析 (別冊宝島 1561 カルチャー&スポーツ) 僕たちの好きなロードス島戦記―全ストーリー&キャラクター徹底解析 (別冊宝島 1561 カルチャー&スポーツ)

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【文責:山中】