【新刊】大橋崇行・山中智省編著『小説の生存戦略-ライトノベル・メディア・ジェンダー』青弓社

2020/05/21

2006年5月の設立以来、14年にわたりライトノベルを対象とした研究を続けてきた当研究会の「到達点」「集大成」となる新刊『小説の生存戦略-ライトノベル・メディア・ジェンダー』が、2020年4月28日に青弓社より発売されました。ご興味のある方はぜひ、お手に取ってご覧頂ければと思います。

https://www.seikyusha.co.jp/bd/isbn/9784787292551/

【紹介】

映画、マンガ、アニメ、ゲーム、テレビドラマ、ウェブサイト――活字で書かれた小説でなくても、現代文化では様々なメディアを通じて物語が発信され、受容されている。多様な表現ジャンルの価値がフラットになるいま、小説にはどのような可能性があるのか。

現代の小説の枠組みを確認するために、マンガやアニメ、ゲームなどのサブカルチャーを雑食的に取り入れて発展・成熟を遂げてきたライトノベルの方法や様式を検証する。そのうえで、ジャンル間を越境してコンテンツを接続するメディアミックスのあり方、図書館や教育での小説の位置、ジェンダーや2・5次元との関係性などを照らし出す。

小説が現代の多様な文化のなかで受容者を獲得し拡張する可能性、サバイブする戦略を、多角的な視点から解き明かす。

【目次】

はじめに 大橋崇行

第1部 拡張する現代小説

第1章 現代文芸とキャラクター――「内面」の信仰と呪縛 大橋崇行
 1 マンガを小説で表現する――恩田陸『蜜蜂と遠雷』
 2 直木賞における評価と作中人物の「内面」
 3 現代文芸におけるキャラクターの越境

第2章 キャラクター化される歴史的人物――「キャラ」としての天皇・皇族の分析から 茂木謙之介
 1 歴史と物語、現在における切断
 2 特異「キャラ」としての近代天皇
 3 平成末期、天皇キャラの乱舞

第3章 霊感少女の憂鬱――ライトノベルと怪異 一柳廣孝
 1 ラノベと怪異
 2 ラノベ独自の「怪異」表象とは何か
 3 「霊感」と「霊感少女」の起源
 4 ラノベのなかの「霊感少女」たち

第4章 「太宰治」の再創造と「文学少女」像が提示するもの――『ビブリア古書堂の事件手帖』シリーズ 大島丈志
 1 『ビブリア古書堂』シリーズと太宰治『晩年』
 2 「断崖の錯覚」の再創造
 3 太宰治「断崖の錯覚」から『ビブリア古書堂』シリーズへ
 4 『ビブリア古書堂』シリーズと「文学少女」が提示するもの

コラム ライト文芸 大橋崇行

コラム ウェブ小説からみる出版業界の新しい形 並木勇樹

コラム 中国のネット小説事情――「起点中文網」のファンタジーカテゴリー「玄幻」を中心に 朱沁雪

第2部 創作空間としてのメディア

第5章 遍在するメディアと広がる物語世界――メディア論的視座からのアプローチ 山中智省
 1 「読んでから見るか、見てから読むか」の現在
 2 多様で複雑なライトノベルをめぐるメディアミックス
 3 「アダプテーション」が発生するポイントはどこか

第6章 三つのメディアの跳び越えかた――丸戸史明『冴えない彼女の育てかた』を例に 山田愛美
 1 「会話劇」としての『冴えない彼女の育てかた』
 2 挿絵の活用
 3 アニメとの比較

第7章 学校図書館とライトノベルの交点――ライトノベルは学校図書館にどのような可能性をもたらすのか 江藤広一郎
 1 中学・高校図書館とライトノベル
 2 これまでの教育空間とライトノベル
 3 今後の学校図書館とライトノベル
 4 ICT教育とライトノベル

コラム 学校教育を取り込むライトノベル 佐野一将

コラム ライトノベルで卒業論文を書く人へ――「ぼっち」がメジャーになる瞬間 須藤宏明

コラム ラノベ編集者の仕事 松永寛和

コラム VRがもたらす体験 山口直彦

コラム ライトノベルとメディアミックス――特にアニメ化について 芦辺 拓

第3部 文化変容とジェンダー

第8章 ライトノベルは「性的消費」か――表現規制とライトノベルの言説をめぐって 樋口康一郎
 1 ライトノベルの表紙は「暴力」か
 2 オタク文化と表現規制
 3 表現規制の問題点
 4 表現規制問題を批評するライトノベル
 5 PC/SNS時代の「公共」

第9章 「聖地巡礼」発生の仕組みと行動 金木利憲
 1 聖地巡礼とはどのような現象か
 2 ビジュアル情報と聖地巡礼

第10章 少女小説の困難とBLの底力 久米依子
 1 少女小説の直面する困難
 2 現代日本と少女小説のルール
 3 新たなモード
 4 BLという可能性

第11章 繭墨あざかはなぜゴシックロリータを着るのか――衣装で読み解くライトノベルのジェンダー 橋迫瑞穂
 1 『ブギーポップ』シリーズにおけるマントと帽子
 2 「炎の魔女」とブギーポップ
 3 ゴシックロリータとジェンダー
 4 「子宮」とゴシックロリータ
 5 ジェンダーを攪乱する衣装

コラム 2・5次元舞台 須川亜紀子

コラム 魔法少女アニメとライトノベルの魔法 山内七音

座談会 ライトノベル研究のこれまでとこれから 一柳廣孝/久米依子/大橋崇行/山中智省
 1 ライトノベル研究会はなぜ始まったのか
 2 『ライトノベル研究序説』から『ライトノベル・スタディーズ』へ
 3 二〇一五年以降の動向
 4 研究のこれから

おわりに 山中智省

なお、同書をもって本研究会はその活動を閉じる予定となっております。こちらのブログについては今後とも存続予定ですので、引き続き、どうぞよろしくお願い致します。

【文責:山中】


新刊情報(研究会関連書籍)

2020/03/25

【3月24日発売】

『怪異の表象空間―メディア・オカルト・サブカルチャー』

一柳廣孝著/国書刊行会

https://www.kokusho.co.jp/np/isbn/9784336065773/

[内容紹介]

日本の近現代は怪異とどう向き合ってきたのか。明治期の怪談の流行から1970年代のオカルトブーム、そして現代のポップカルチャーまで、21世紀になってもなおその領域を拡大し続ける「闇」の領域――怪異が紡いできた近現代日本の文化表象を多角的視座から探究した決定版。

第1部 怪異の近代
第1章 怪談の近代
第2章 心霊としての「幽霊」――近代日本における「霊」言説の変容をめぐって
第3章 怪談を束ねる――明治後期の新聞連載記事を中心に
第4章 心霊データベースとしての『遠野物語』
第5章 田中守平と渡辺藤交――大正期の霊術運動と「変態」
第6章 霊界からの声――音声メディアと怪異
第2部 オカルトの時代と怪異
第7章 心霊を教育する――つのだじろう「うしろの百太郎」の闘争
第8章 オカルト・エンターテインメントの登場――つのだじろう「恐怖新聞」
第9章 オカルトの時代と『ゴーストハント』シリーズ
第10章 カリフォルニアから吹く風――オカルトから「精神世界」へ
第11章 「学校の怪談」の近代と現代
第12章 幽霊はタクシーに乗る――青山墓地の怪談を中心に
第3部 ポップカルチャーのなかの怪異
第13章 薄明を歩む――熊倉隆敏『もっけ』
第14章 ご近所の異界――柴村仁『我が家のお稲荷さま。』
第15章 学校の異界/妖怪の学校――峰守ひろかず『ほうかご百物語』
第16章 キャラクターとしての都市伝説――聴猫芝居『あなたの街の都市伝鬼!』
第17章 境界者たちの行方――「もののけ姫」を読む

【4月28日発売】

『小説の生存戦略―ライトノベル・メディア・ジェンダー』

大橋崇行・山中智省編著/青弓社

https://www.seikyusha.co.jp/bd/isbn/9784787292551/

[内容紹介]

映画、マンガ、アニメ、ゲーム、テレビドラマ、ウェブサイト――活字で書かれた小説でなくても、現代文化では様々なメディアを通じて物語が発信され、受容されている。多様な表現ジャンルの価値がフラットになるいま、小説にはどのような可能性があるのか。

現代の小説の枠組みを確認するために、マンガやアニメ、ゲームなどのサブカルチャーを雑食的に取り入れて発展・成熟を遂げてきたライトノベルの方法や様式を検証する。そのうえで、ジャンル間を越境してコンテンツを接続するメディアミックスのあり方、図書館や教育での小説の位置、ジェンダーや2・5次元との関係性などを照らし出す。

小説が現代の多様な文化のなかで受容者を獲得し拡張する可能性、サバイブする戦略を、多角的な視点から解き明かす。


ライトノベルのアメリカ出版状況2019

2019/10/26

ライトノベルの海外翻訳調査からすっかり遠ざかっているのですが、courier japanのサイトにドンピシャな記事が載りました。有料サイトなので、登録しないと読めませんが、、、

日本のライトノベルがアメリカで注目されはじめた理由 | 椎名ゆかり「アメリカ“MANGA”人気のいま」 #21


2010年頃までの動向解説は、だいたいこの連載で説明した通りですが、私が調査をサボってから以降の話を書き出しておくと:

  • YenPressは2016年にKADOKAWAと資本提携した。
  • 以来、一年で100冊ペースで翻訳・出版が行われるようになった
  • きっかけはネット配信で日本アニメがさらに普及したこと。そして、アニメ原作のラノベが人気になった
  • J-Novel Clubという専用サイトがある
  • Light Novelというカテゴリーを設ける書店や図書館も増えているらしい
  • 日本と同様に異世界転生ものが流行っている

などです。

(報告:太田)


イベント記録・告知(ライトノベル関連)

2019/08/09

2019年6月24日(月)~8月2日(金)まで目白大学新宿図書館で開催された、特別企画展示・講演会「活字+αの世界―ライトノベル×児童文学×サブカルチャー―」。その関連ツイートをまとめましたので、実際にご覧になられた方もそうでない方も、展示・講演会の様子をふり返る機会にして頂けましたら幸いです。

2019年8月12日(月・祝)に新宿のLive Wire HIGH VOLTAGE CAFEにて、「ホラー・アカデミア#8 ライトノベル・ライト文芸のなかの「怪異」―怪談文芸の行方―」が開催されます。現在も参加受付中ですので、ご興味のある方はぜひご検討ください。

ライト文芸では、怪異は花盛りである。イケメンの妖(あやかし)たちが人間社会に入り込み、旅館や喫茶店、和菓子屋から不動産業、さらにはクリニックまで、ありとあらゆる業種で活躍し、女性読者を魅惑する。一方、ライトノベルでは、怪異怪談系は退潮気味であるものの、非日常世界を日常に変える異世界系の物語が大人気である。

そこで今回は、『ほうかご百物語』でライトノベル作家としてデビューしたのち、『絶対城先輩の妖怪学講座』シリーズで人気を博し、さらに近年は『妖怪解析官・神代宇路子の追跡』『新宿もののけ図書館利用案内』『STAiRs, be STAR! 怪談アイドルはじめます。』を立て続けに発表して波に乗る峰守ひろかずさん、そして近現代日本文学研究者にしてラノベ作家、さらにはライトノベル研究会を主導するという、もはや八面六臂の怪異にしか見えないご活躍の大橋崇行さんをお招きし、現今のライトノベル界、ライト文芸界における「怪異」について、ご自身のお仕事も含めて、縦横無尽にお話しいただく予定である。

【文責:山中】


【告知】特別企画展示「活字+αの世界―ライトノベル×児童文学×サブカルチャー―」(目白大学新宿図書館・6/24~8/2)

2019/05/26

目白大学新宿図書館では来る6月24日(月)から8月2日(金)にかけて、特別企画展示「活字+αの世界―ライトノベル×児童文学×サブカルチャー―」を開催することとなりました。企画・監修は、同学人間学部子ども学科の山中が担当致します。

期間:2019年6月24日(月)~8月2日(金)
会場:目白大学新宿図書館 1階ブラウジングコーナー

※学外の方も見学可(図書館受付にて手続きあり)

<本展示のテーマと内容>

今年のテーマは「活字+α」です。たとえば小説の場合、作家が紡いだ物語は必ずしも、活字のみで出版されているとは限りません。実際に図書館や書店の棚に並ぶ本に目を向けたなら、挿絵や表紙イラストなど、何らかのビジュアル要素を伴って出版された作品が少なくないことに気づくでしょう。こうした活字+αがもたらす力は、物語を魅力的なものにすることはもちろん、数多くの読者を作品に惹きつける原動力となってきました。また、複数のメディアを横断するメディアミックス、SNSを介した作家/読者同士のコミュニケーションなどが活発に行われている昨今では、+αされる要素はもはや一冊の本の範疇にとどまらず、多様性を増していると言えます。そんな「活字+αの世界」に迫るため、本展示では若年層向けエンターテインメント小説として知られているライトノベル、児童文庫やアニメ絵本を中心とした児童文学、さらには両者と関りを持つサブカルチャーを取り上げ、お互いの接点にも着目していきます。

なお、展示物については上記の通り、ライトノベル、児童文庫やアニメ絵本などを中心に、作品の単行本や関連資料を展示予定です。また、今回はラノベ好きバーチャルYouTuberとして知られる本山らのさんにもご参加を頂き、本展示用の特別動画の放映も行います。

<関連講演>

「ライトノベルという出版メディア―活字+ビジュアルの力が読者を掴む!?―」
講演者:山中智省(人間学部子ども学科専任講師)

日時:2019年7月20日(土)14時~15時30分
場所:目白大学新宿図書館 本館2階閲覧室
※学外の方は事前申込が必要(電話・メール等)

アクセス情報
目白大学新宿キャンパス
目白大学新宿図書館

ご興味のある方はぜひ、ご来場頂けましたら幸いです!!

【文責:山中】


森見登美彦はアメリカでライトノベル作家になる ーー最近のYenPress

2018/11/27

ライトノベルの海外翻訳関係の投稿が途絶えています。地方都市に引っ越してラノベとは無縁の結構忙しい仕事を始めてしまったせいで、調べ物をする時間も、海外に調査に行く時間もなくなったためです。

先日、『熱帯』を刊行した森見登美彦さんのインタビューを読んでいて「森見って海外翻訳されたんだろうか?」ということが気になりました。調べてみると、まだ翻訳は出ていませんが、YenPressが版権を買っていました!

http://yenpress.com/yen-on/
の情報によれば『ペンギン・ハイウェイ』Penguin Highwayが来春3月に出版予定であり、
https://www.animenewsnetwork.com/news/2018-07-08/yen-press-licenses-happy-sugar-life-kakegurui-twins-manga-penguin-highway-walk-on-girl-mirai-novels/.134009
の記事によれば、『夜は短し歩けよ乙女』(The Night is Short, Walk on Girl)もライセンスを取得している模様。

つまり、山本周五郎賞受賞作家である森見登美彦はアメリカでライトノベル作家として売り出されるということです。「ライトノベルとはテキスト自体によって規定されるのではなく出版事業の中で規定されて行く」という一例ではないでしょうか。

上述の記事には森見の他の著作として『四畳半神話体系』(The Tatami Galaxy)『有頂天家族』(The Eccentric Family)が紹介されているのですが、これらは全てアニメ化された作品です。やはり、この世界ではアニメ経由で翻訳されて行くのですね。それにしてもThe Tatami Galaxyという翻訳が素晴らしすぎる。

なお、アニメの『夜は短し歩けよ乙女』(The Night is Short, Walk on Girl)はこの夏にアメリカで一般劇場で公開されており、評価は高かったようです。映画評まとめサイトであるRottenTomatoでは批評家・一般観客双方で90%の評価を得ていました。(興行成績としては40万ドル。)

(報告:太田)


研究会メンバーの執筆活動紹介

2018/08/30

■【重版出来】大橋崇行(著)小曽川真貴(監修)『司書のお仕事』(勉誠出版)

司書のお仕事―お探しの本は何ですか? (ライブラリーぶっくす) 司書のお仕事―お探しの本は何ですか? (ライブラリーぶっくす)
大橋崇行 小曽川真貴

勉誠出版 2018-04-30
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■【新刊】西條八十(著)芦辺拓(編)大橋崇行(校訂)『西條八十集 人食いバラ 他三篇』(戎光祥出版)

戦前~戦後にかけて多くの作品が発表された少年・少女向けの奇想ミステリ文学を作家別にまとめたアンソロジーシリーズ刊行開始!発表当時に人気を集めた作品のみならず、文学的価値の高さ、内容的のユニークさなどから選定。文芸ファン、ミステリファン、児童文学ファン必読の作品ラインナップです。(出版社HPより)

西條八十集 人食いバラ 他三篇 (少年少女奇想ミステリ王国1) 西條八十集 人食いバラ 他三篇 (少年少女奇想ミステリ王国1)
西条八十

戎光祥出版 2018-08-18
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■【新刊】『文藝別冊 氷室冴子』(河出書房新社)

『クララ白書』『なんて素敵にジャパネスク』『海がきこえる』『銀の海 金の大地』――没後10年、愛され読み継がれる小説家・氷室冴子の軌跡と魅力に迫る、総特集!(出版社HPより)

氷室冴子: 没後10年記念特集 私たちが愛した永遠の青春小説作家 (文藝別冊) 氷室冴子: 没後10年記念特集 私たちが愛した永遠の青春小説作家 (文藝別冊)
氷室冴子 新井素子 飯田晴子 伊藤亜由美 榎木洋子 榎村寛之 荻原規子 菊地秀行 木村朗子 久美沙織 近藤勝也 嵯峨景子 須賀しのぶ 菅原弘文 高殿円 田中二郎 俵万智 辻村深月 ひかわ玲子 藤田和子 堀井さや夏 三浦佑之 三村美衣 群ようこ 山内直実 柚木麻子 夢枕獏

河出書房新社 2018-08-28
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【文責:山中】


【告知】コンテンツ文化史学会2018年第1回例会:ビブリオトーク×書評セッション「コンテンツ研究を書籍にする」(7/21@東京女子大学)

2018/07/14

コンテンツ文化史学会では、昨年度から「コンテンツ文化史研究の未来」をめぐって研究会を重ねてきました。今回の例会では、コンテンツ文化の研究に関して著作を執筆された三名によるビブリオトーク(書籍紹介)と、若手研究者のお二人(最近、書籍を公刊)による書評を行います。その後に、「コンテンツ研究を書籍化するにあたって」というトークセッションを開催し、コンテンツ研究と書籍の未来について考える会にしたいと思います。関連研究に従事している方や、それらを志している学生のみなさん、そして出版執筆関係者など、多方面からの参加をお待ちしております。

※ライトノベル研究会からは嵯峨景子氏、山中智省氏が参加致します。

日時:7月21日(土) 15:00~17:30
場所:東京女子大学 9号館9104教室
費用:例会は無料、懇親会は実費(学生・院生・非常勤職の方は負担軽減)

参加登録はコチラ

内容

1.登壇者の著作についてのビブリオトーク×書評
2.トークセッション「コンテンツ研究を書籍化するにあたって」

登壇者

岡本健(奈良県立大学)
玉井建也(東北芸術工科大学)
山中智省(目白大学)
評者:嵯峨景子(明治学院大学)田島悠来(帝京大学)
司会:堀内淳一(皇學館大学)

ゾンビ学 ゾンビ学
岡本 健

人文書院 2017-04-18
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幼なじみ萌え ラブコメ恋愛文化史 幼なじみ萌え ラブコメ恋愛文化史
玉井 建也 京都造形芸術大学 東北芸術工科大学 出版局 藝術学舎

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ライトノベル史入門  『ドラゴンマガジン』創刊物語―狼煙を上げた先駆者たち ライトノベル史入門  『ドラゴンマガジン』創刊物語―狼煙を上げた先駆者たち
山中智省 あらいずみるい

勉誠出版 2018-01-31
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コバルト文庫で辿る少女小説変遷史 コバルト文庫で辿る少女小説変遷史
嵯峨 景子

彩流社 2016-12-28
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「アイドル」のメディア史: 『明星』とヤングの70年代 「アイドル」のメディア史: 『明星』とヤングの70年代
田島 悠来

森話社 2017-04-05
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【文責:山中】


【新刊告知】山中智省(著)あらいずみるい(イラスト)『ライトノベル史入門 『ドラゴンマガジン』創刊物語―狼煙を上げた先駆者たち』勉誠出版

2018/01/20

本日1月20日に発売された『ドラゴンマガジン』(富士見書房)2018年3月号が今、俄かに注目を集めています。

ドラゴンマガジン 2018年3月号 ドラゴンマガジン 2018年3月号

KADOKAWA 2018-01-20
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この要因としてはやはり、歴史にその名を刻むライトノベルの〝金字塔〟、神坂一(著)あらいずみるい(イラスト)『スレイヤーズ』シリーズの本編が久しぶりに再開されたことが大きいでしょう。単行本第15巻『デモン・スレイヤーズ!』(富士見ファンタジア文庫、2000年5月)以降、本編の続編を待ち望んでいたファンにとっては大変喜ばしいニュースでしたし、『ドラゴンマガジン』発売日当日の朝、真っ先に書店へ向かったという方、購入後はいの一番に読んだという方も、決して少なくないはずです。それほどまでに『スレイヤーズ』シリーズの本編再開は、多くの人々が注目するビックニュースだったわけですね。

<関連ニュース>

小説「スレイヤーズ」本編が再始動 2000年刊行の最終巻から続編
(KAI-YOU.net)

「スレイヤーズ」新作制作決定、なんとデモン・スレイヤーズ!終了後が舞台の続編に( Livedoor NEWS)

そして、いま一つ忘れてはならないのは、この2018年3月号をもって『ドラゴンマガジン』そのものが、創刊30周年を迎えたということです。1988年1月の創刊以来、数々の作家・作品を輩出しながら業界をリードしつつ、いわゆるライトノベル雑誌の草分け的存在と見なされてきた『ドラゴンマガジン』――。本号はまさに、その記念号として刊行されることとなりました。

さらに、付録「ドラゴンマガジン30thクロニクル」(『スレイヤーズ』新作もこちらに先行掲載)では、『ドラゴンマガジン』の創刊から現在に至るまでの歴史を年表形式で紹介しており、これまでの軌跡が辿れるようになっています。ですから、たとえ若い読者の方々であっても、『ドラゴンマガジン』とはいかなる雑誌で、どのような歴史を歩んできたのかを、あらためて知ることができる機会が生まれているわけですね。

<関連ニュース>

「ドラゴンマガジン」30周年記念号が1月20日発売! 皆さまに感謝の気持ちを込めて、スペシャルな目玉企画盛りだくさんでお届け致します!(PRTIMES)

ファンタジア文庫&ドラゴンマガジン30周年サイト(富士見書房)

ちなみにAKIHABARAゲーマーズ本店では現在、『ドラゴンマガジン』や富士見ファンタジア文庫の歴史に関する展示を実施中とのことです。私はまだ未見なのですが、おそらく、ある人は懐かしさとともに、またある人は、その歴史の長さと功績の大きさに対する驚きとともに、展示をご覧になっているのではないでしょうか。

さて、こうした状況のなか、『ドラゴンマガジン』創刊当時を中心に同誌やライトノベルの歴史に迫る研究書、山中智省(著)あらいずみるい(イラスト)『ライトノベル史入門 『ドラゴンマガジン』創刊物語―狼煙を上げた先駆者たち』(勉誠出版)が間もなく刊行されます。

今回の『ドラゴンマガジン』をめぐる様々な盛り上がりのなかで、同誌の歴史にあらためて興味を持ったという方、あるいは、同時代を経験したかつての読者だったという方には、ぜひ先の「ドラゴンマガジン30thクロニクル」と合わせて本書をお読み頂けましたら幸いです。刊行前のため詳細はまだ伏せますが、きっと本書を通じて、これまで知らなかった『ドラゴンマガジン』の一面を再発見できるのではないかと思いますので。

そして、本書には『ドラゴンマガジン』創刊に携わった方々の長文インタビューが複数収録されており、創刊の経緯はもちろん、当時の興味深い裏話も多数含まれています。著者である私も思わず「え!?」と驚かずにはいられなかった、あんなことやこんなことが、当事者の方々から語られているのも見所の一つです(笑)

【これが気になる!!という方にもお薦め】

・そもそも、なぜ『ドラゴンマガジン』は創刊に至ったのか?
・創刊号の表紙はなぜ、コスプレをしたアイドル(浅香唯)だったのか?
・『ドラゴンマガジン』に込められた編集者、作家、読者の想いとは何か?
・『ドラゴンマガジン』に作家が作品を掲載する際、何を意識していたのか? etc.

ライトノベル史入門  『ドラゴンマガジン』創刊物語―狼煙を上げた先駆者たち ライトノベル史入門  『ドラゴンマガジン』創刊物語―狼煙を上げた先駆者たち
山中智省 あらいずみるい勉誠出版 2018-01-31
売り上げランキング : 20990Amazonで詳しく見る by G-Tools

1980年代後半~90年代前半を中心に、現在「ライトノベル」と呼ばれている若年層向けエンターテインメント小説が誕生していく過程を、ライトノベル史に名を残す雑誌『ドラゴンマガジン』とその周辺状況に着目しつつ、著者が収集した多数の資料と同時代を経験した人物のインタビューから描き出す。(出版社HPより)

*試し読みはコチラ

【目次】

はじめに 

第1章 『ドラゴンマガジン』創刊前後の状況
Ⅰ 〈ライトノベル雑誌〉への注目
Ⅱ 創刊から躍進までの軌跡
Ⅲ 雑誌・文庫レーベル・新人賞の関係性
Ⅳ 創刊号にみるビジュアル重視の姿勢

第2章 創刊を手がけた編集者たち
Ⅰ 『ドラゴンマガジン』創刊責任者インタビュー 小川洋
Ⅱ 表紙・グラビア・取材記事担当インタビュー 竹中清
コラム① 誌上に現れた二つのメディアミックス

第3章 創刊号の誌面を飾った作家たち
Ⅰ 小説家インタビュー 竹河聖
Ⅱ イラストレーターインタビュー あらいずみるい
Ⅲ マンガ家インタビュー 見田竜介
コラム② 作家の共演が生み出した「イマジネーションの世界」

第4章 『ドラゴンマガジン』が育んできたもの
Ⅰ 読者投稿ページ「ガメル連邦」担当インタビュー 加藤一
Ⅱ 小説家インタビュー 新城カズマ
Ⅲ 小説家インタビュー 伊藤ヒロ
コラム③ 読者・作家・編集者が交差する場

第5章 〝ビジュアル・エンターテインメント〟の誕生と展開
Ⅰ 「メディアミックス世代」と呼ばれた読者たち
Ⅱ ビジュアル重視の小説雑誌と読者―『獅子王』『ドラゴンマガジン』を例に
Ⅲ 『ドラゴンマガジン』が生んだ〝ビジュアル・エンターテインメント〟

おわりに―そして「ライトノベル」へ

あとがき
参考文献一覧
過去の作品を知りたい・読みたい・入手したい人のための資料探索ガイド
『ドラゴンマガジン』基本情報一覧(1988~1995年)

すでに見本出来とのことですので、早ければ来週あたりから順次、書店に並び始めるかと思われます。こちらにつきましては判明次第、あらためて告知致します。

それでは、どうぞよろしくお願い致します!!

【文責:山中】


何が現地語なのか?(東南アジアのライトノベル)

2017/12/24

ということで、10月から11月にかけては、インドネシアとマレーシアの本屋巡りをしながら「現地語のライトノベル」探しをさせていただいたわけですが、タイなどに比べるとライトノベル自体の存在感が薄いことを実感しました。マレーシアだと英語や中国語翻訳で入っているけどインドネシアではそれも薄い。マレーシア語やインドネシア語翻訳では、ほとんど無いに等しい(マレーシア語の『古典部』シリーズの翻訳のみ発見。)

ここで白状しなければならいのですが、私はインドネシアやマレーシアの言語事情を軽く考えすぎていました。マレーシアの「現地語」はマレーシア語であり、インドネシアのそれはインドネシア語である(そしてインドネシア語とマレーシア語とほとんど一緒の言語である)程度にしか考えていなかったのです。ところがマレーシアでのマルチリンガルな言語事情を目の当たりにして、何が「現地語」なのかは、よくよく考えておく必要があったと反省しました。

今回の訪問国に限らず多くのアジア・アフリカの国々に共通する話なのですが、植民地支配を受けた地域はマルチリンガルな社会であり、言語はおおよそ3層構造になっているとされます。まず、家庭内で使われている母語の層があります。アジアやアフリカはこれが結構細かく分かれていて、部族や氏族ごとに違う母語が使われている場合が多い。インドネシアでは500以上の言語が話されているといいますし、インドでは約1000の言語が今でも話されているとされます。
これに対して、地域共通語(リンガ・フランカ)というのがあって、社会生活や学校教育で用いられます。フィリピン語(フィリピーナ)もタガログ語という共通語を公用語として採用したものです。インドネシアの場合はバハサと呼ばれる共通語があって、インドネシア語と呼ばれる公用語は、このバハサを指します。

地域共通語はその国の有力地域で使われている言葉が使われることが多いのですが(フィリピンのタガログ語はその一例)、例外もあります。例えば、インドネシアで用いられる言語で母語話者が最も多いのはジャワ語であって(7500万人)、バハサ(もしくはその元となったマレー語系)を母語としている人達(1700〜3000万人)よりもはるかに多い。つまり、ジャワ島での「現地語」とはインドネシア語ではなくてジャワ語という方が正しいのかもしれません。加えていうなら、ジャワ語は古い歴史を持ち、古典文芸も書かれているという、かなり格調の高い言語だし、ジャワ語を話すジャワ人はインドネシアという国の中枢を握っているマジョリティーです。

<インドネシアの言語マップ>

この他に旧宗主国の言語があり、高等教育はこの言葉が使われることが多いし、役所の手続きなどにも使われます。マレーシアはイギリス領でしたから英語がこれに該当し、インドネシはオランダ領だったのでオランダ語がこれに該当します。

このように多くの地域では人々の言語環境は本質的にマルチリンガルです。日本のようにかなり早い時期に言語が統一され、西欧列強による植民地化を免れ、明治期のインテリが頑張って翻訳したおかげで西欧語を使わずに高等教育することが可能になっているという、モノリンガルな国の中にいると見えにくい話です。しかし、アジアを旅していれば、部族語と地域共通語を3つ以上操る人は普通に見ますし、インテリともなると日本人以上に達者な西欧語を喋っているのは普通の風景です。

このマルチリンガルな状態を「書き言葉」の観点から考えてみましょう。ライトノベルは10代のための娯楽小説なので、どうしても「読む」という行為が必要となるからです。まず、多くの部族語や氏族語は書き言葉としては未熟です。話者が少ない場合、正書法が確立していないことも多く、出版物も極めて限られるというか、無いに等しい場合がほとんどです。つまり、多くの母語は書物と無縁の言葉なのです。

地域共通語ともなると、ある程度正書法も確立されて、出版物もそこそこ出て来ますけれど、これは各国の事情に強く依存します。私が知っている東チモールはやや極端な例ですが、2002年独立のこの国では共通語(公用語)のテトゥン語の正書法が未だに定まっていません。声に出して読み上げれば誰でも理解できるのですが、綴りがまちまちなままなのです。こんな状態ですから、出版物も極めて限られたままです。つまり書き言葉としての共通語というのは、政府などが時間をかけて教育などを通じて作り出していくものであり、これは各国の事情に大きく依存するのです。

旧宗主国言語については独立後も高等教育などで残り続けるものの、やがて地域共通語が力をつけてくると、それに譲るようになります。また最近では、国際共通語としての英語が旧宗主国言語にとって代わる例も多く見受けられます。

インドネシアの場合は、独立時の理念に従い敢えてマジョリティーのジャワ語を公用語とはせずに、バハサ(共通語)を採用してその教育と普及にかなり力を入れました。とはいうものの、ジャワ語などの民族語教育も行われていますし、どんな庶民でも母語とバハサのバイリンガルです。旧宗主国のオランダ語は影を潜めたものの大学によっては英語で教育が行われているといいますから、インテリは英語を加えた3言語話者が当たり前ということになります。これに加えて、マレーシアほどではないけれども中国系国民の存在があり、中国語の書籍も本屋には結構あります。

マレーシアの場合は、マレー系(マレーシア語)が65%、中華系(北京語、福建語、広東語、、、)25%、インド系(タミル語他)8%という人種・母語構成です。マレーシアもまた多くの言語が母語として話されていたのですが、それらは消滅しつつあるるのだそうです。過半数の人はマレーシア語が母語ではあるものの、人口の1/4を占める中国語話者がいるので、母語以外にマレーシア語や中国語を話せる人はかなり多いし、そこに旧宗主国言語である英語が大きな存在感を持っていて、多くの人が英語を話すことができます。要するにマレーシアは、相当なマルチリンガルな社会です。中国語は話し言葉こそバラバラですが書き言葉は統一されていますので相当な存在感があります。この結果としてマレーシア語と英語と中国語という3つの言語が本屋の中では同等の勢力を持っていると思って良い。

<マレーシアの民族構成>

(インドネシア語(バハサ)はマレー語が元になっているのでマレーシア語とインドネシア語はほとんど同じ言語です。ただ、政治的に両者を同じ言語として扱う動きはありませんし、出版も別々に行われています。)

モノリンガルな国から来た人間として、ついついインドネシア語やマレーシア語のライトノベルを探したのですが、マルチリンガルな環境というものをもう少し考慮してから調査にあたるべきだったと猛省しています。例えば、私がジャカルタの本屋さんでみていた「インドネシア語の本」ですが、ひょっとしたらジャワ語の本もあったのかもしれません。ジャワ語の出版物はかなり限られているらしいので、その可能性は低そうなのですが、それでもそこは意識しておくべきでした。

さて、こうした言語事情を前提にして考えるべきなのは、「ライトノベル出版が成立するほどに、十分な読書集団が形成されているのか?」、そして「その読書集団はその言葉で娯楽小説を読みたいと思うほどに言語習得できているのか?」という問題です。

前述したように、多くの言葉は話者自体が多くありませんし、書き言葉としての成熟度が問題になりますが逆にいうと、その条件を満たす言葉が複数になることはあり得るのです。マレーシアの場合は、マレーシア語、中国語がこれに該当し、加えて英語教育がかなりしっかりと行われた結果、英語読者も結構多い。つまり、マレーシアの「現地語」とはマレーシア語・中国語・英語であると考えておくべきなのです。インドネシアであれば、バハサとジャワ語がこれに該当し、他にも候補になる言語(スンダ語など)はあるのかもしれません。

そして十代の読者層にとっての「母語でない言語で読む小説」とはどんなものなのか、想像力を巡らしておくことは必要になるるでしょう。一言でマルチリンガルといっても、皆が皆、全ての言語を母語並みに操れるというわけでは無いのです。ことに書き言葉は習得にそれなりの労力を要しますので、マルチリンガルだからといって誰もがスラスラと多種にわたる言語の本を読んでいるわけでも無いらしい。私の知り合いのインドネシア人には、英語での会話は達者だけれども、英語メールの返事を絶対に書いてくれないという人がいました。話し言葉を操る能力と、書き言葉を操る能力は別なのです。

ジャワ語を母語とするインドネシアの青少年にとって、バハサの娯楽小説というのは、どの程度とっつきやすいものなのか。彼らにとってバハサとは、学校で使われ、テレビで流れる「少し改まった言葉」なのであり、友達同士でふざけあったりダラダラとお喋りする言語はジャワ語なのです。そうなると、様々な手口で書き手と読者の近さ演出し、親しみやすさを信条とするライトノベルにとって、バハサは最適な言語になるのでしょうか?

あるいは、英語を喋っているマレーシア人にとって英語のライトノベルは気楽に読める娯楽小説なのでしょうか?中国語も話せるマレー系住人は中国語の軽小説を気楽に読むことができるのか?その逆にマレーシア語も話せる中国系住人にとってマレーシア語の娯楽小説は気軽に読めるものなのか?

ライトノベルの出版が成立するためには、ある程度のお金を持っている(お小遣いをもらっている)10代の読者層が一定数以上存在しなくてはならない。そのように私は思っていたのですが、それ以前に「気軽に読める言葉で小説が出版されるなどの環境が整っているのか」という問題があるのです。当たり前といえば当たり前なのですが、モノリンガルな日本からは案外に見落としやすい点なので、長々と書いてしまいました。

(報告:太田)