ライトノベル海外翻訳事情 韓国編(2)

2012/04/30

前回( https://societyforlightnovel.wordpress.com/2012/03/10/ライトノベル翻訳事情 韓国編/ )は、韓国から直輸入したライトノベルを手に取り、ジョンさんから送って頂いたソウルの書店のライトノベル売場の写真を見ながら「日本とまったく同じだ~」と感心して終わったのですが、手に入れた韓国版ライトノベルをよくよく見ると、レーベルが著しく偏っていました。そこで、「韓国で出版されているライトノベル・レーベル」という観点で、今一度ハングル文字と格闘してみました。

(前回も出しましたが、NT Novelの例として『涼宮ハルヒ』を再掲しておきます。)

偏っていたレーベルと言うのが、NT Novelで、出版は大元(デウォン)C.I.社。元々、角川書店のアニメ雑誌『ニュータイプ』の韓国語版を出していた会社で、NTはNew Typeから来ているそうです。Wikipediaの情報を信じるならば、韓国へのライトノベル翻訳はこの会社が2002年に始めたということになっており、現在も市場をリードする存在のようです。実際に、2004~2008年および、2011年の日本におけるベストランキング作品がどのレーベルで翻訳されたかを示したのが表1と表2ですが、見事にNT Novelの一人勝ち状態に見える。(実際に韓国で売れている作品をどのレーベルが押さえているかは、また別の問題ですので要注意なのですが。)

表1.2003下期−2008上期

1.涼宮ハルヒ(スニーカー)->大元C.I. NT Novel
2.キノの旅(電撃文庫)->大元C.I. NT Novel
3.フルメタル・パニック!(富士見ファンタジア文庫)->大元C.I. NT Novel
4.「戯言」シリーズ(講談社ノベルズ)->鶴山文化社  レーベル不明
5.狼と香辛料(電撃文庫)->鶴山文化社 Exstream Novel
6.灼眼のシャナ(電撃文庫)->大元C.I. NT Novel
7.とらドラ!(電撃文庫)->鶴山文化社 Exstream Novel
8.文学少女(ファミ通文庫)->鶴山文化社 Exstream Novel
9.空ノ鐘の響く惑星で(電撃文庫)->大元C.I. NT Novel
10.終わりのクロニクル(電撃文庫)->大元C.I.  NT Novel
11.とある魔術の禁書目録(電撃文庫)->大元C.I. NT Novel
12.半分の月がのぼる空(電撃文庫)->鶴山文化社 Exstream Novel
13.バッカーノ(電撃文庫)->大元C.I. NT Novel
14.ゼロの使い魔(MF文庫J)->ソウル文化社 J Novel
15.されど罪人は竜と踊る(スニーカー)->大元C.I. NT Novel
16.バカとテストと召喚獣(ファミ通文庫)->大元C.I. NT Novel
17.黄昏色の詠使い(富士見ファンタジア文庫)->大元C.I. NT Novel
18.ムシウタ(スニーカー)->鶴山文化社 Exstream Novel
19.BLACK BLOOD BROTHERS(富士見ファンタジア文庫)->大元C.I. NT Novel
20.七姫物語(電撃文庫)->鶴山文化社 Exstream Novel
21.嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん(電撃文庫)->鶴山文化社 Exstream Novel
22.悪魔のミカタ(電撃文庫)->大元C.I. NT Novel
23.デュラララ!!(電撃文庫)->大元C.I. NT Novel
24.マリア様がみてる(コバルト文庫)->ソウル文化社 Wink Novel
25.ウィザーズ・ブレイン(電撃文庫)->未翻訳
26.砂糖菓子の弾丸は撃ち抜けない(富士見ミステリー文庫)->大元C.I. 一般文芸?
27.GOSICK(富士見ミステリー文庫)->大元C.I. NT Novel
28.流血女神伝(コバルト文庫)->鶴山文化社 May Queen Novel?
29.人類は衰退しました(ガガガ文庫)->ソウル文化社 J Novel
30.銀盤カレイドスコープ(スーパーダッシュ文庫)->鶴山文化社 Exstream Novel

 表2.2010下期〜2011上期

1.ソードアート・オンライン(電撃文庫)->ソウル文化社 J Novel
2.とある魔術の禁書目録(電撃文庫)->大元C.I. NT Novel
3.ベン・トー(スーパーダッシュ)->鶴山文化社 Exstream Novel
4.円環少女(スニーカー)->デウォンC.I. NT Novel
5.バカとテストと召喚獣(ファミ通文庫)->大元C.I. NT Novel
6.僕は友達が少ない(MF文庫J)->鶴山文化社 Exstream Novel
7.丘ルトロジック(スニーカー)->不明
8.涼宮ハルヒ(驚愕)(スニーカー)->大元C.I. NT Novel
9.アイドライジング(電撃文庫)->不明
10.雨の日のアイリス(電撃文庫)->不明

元々、日本のライトノベル出版は角川系出版社のレーベルで大半を押さえられているという状態ですから(ご存知の方も多かろうとは思いますが念のために記しておけば、電撃のメディアワークスも、富士見も、ファミ通のエンターブレインも、MF文庫Jのメディアファクトリーも角川ホールディングス傘下ですし、スニーカーはもちろん角川ですから)、角川のアニメ雑誌翻訳で成功し、ライトノベルの韓国市場導入に成功した大元C.I.社が、角川系ライトノベルで韓国市場を席巻していたとしても、不思議はありません。ただ、表を見ればお分かりのように、角川系ライトノベルの全てをNT Novelが出しているという訳でもない。例えば、日本では電撃文庫で出た『狼と香辛料』は次に紹介する鶴山文化社のExtreme Novelというレーベルから出ています。

(鶴山文化のExtreme Novelの例として『文学少女』、そのレーベル外で出された『戯言』)

そこで、業界二番手と思われるExtreme Novelレーベルを運営する鶴山文化(ハサンモンハヮ)の話に移ります。1995年に出来たマンガ出版社で「Chance」という少年マンガ雑誌を出しています。Extreme Novel は『狼と香辛料』『とらドラ!』『文学少女』など、日本で評価の高い作品を結構押さえていて、前回に紹介した中の『半分の月がのぼる空』もその一つでした。鶴山文化はこの他にもMay Queen Novelという少女小説レーベルで、『流血女神伝』などを出していますし、講談社の雑誌『ファウスト』を出していた関係からファウストノベルズというレーベルもあります。日本の「ファウスト系」作品は概ね、このレーベルで出されている模様ですが、出版が早かった西尾維新の『戯言』シリーズには、このレーベル名は冠されていませんでした。

Extreme Novelも、NT Novel同様に日本のライトノベルのフォーマットをかなり忠実に再現しています。表紙も、カラー口絵もマンガのイラストも後書きもすべてオリジナルを踏襲しているのです。ただし、日本において頑強に独自フォーマットに拘ってライトノベルの本流から一線を画していた講談社は、(アメリカでDelRey社に強いたのと同様に)ここでも独自路線を鶴山文化に強いたようで、Extreme Novelとは別のレーベルを起こさせて、日本でのスタイルを守らせています。

(ソウル文化社J Novelの例として『ゼロの使い魔』とWink Novelの例として『マリア様がみてる』)

韓国の出版社でもう一社紹介しておきたいのが、ソウル文化社。これも、やはりマンガの出版社で、週刊少年マンガ誌「Jump」、少女マンガ誌「Wink」を出しています。ネットで見たところ、『BLEACH』『名探偵コナン』の翻訳が掲載されていますので、アメリカでの「Jump」と同様に集英社/小学館の一ツ橋系列とみてよいのかもしれません。日本で集英社コバルト文庫から出た『マリア様がみてる』は、Wink Novelというレーベルから出されており、『ゼロの使い魔』『人類は衰退しました』はJ Novelというレーベルから出されていました。JはJumpから来ているのでしょうね。

J Novelも手に入れて見ましたが、これまた日本フォーマットそのままです。表1や2をみるかぎり、NTとExtremeとJの3レーベルで殆どの作品が網羅されていますので、これらのレーベルが日本のライトノベルのフォーマットに従っている以上、「韓国でのライトノベル翻訳は日本のスタイルをそのまま持ち込んで出版している」と言ってよいでしょう。そして「講談社はその本流に従わず、独自路線を貫いている」ということも言えると思います。

韓国では、翻訳ではないオリジナルのライトノベルも書かれるようになっているそうですが、今回の調査の主旨からは外れますので、そこには突っ込みませんでした。

(報告:太田)


讀賣新聞に「ラノベくらぶ」という記事

2012/04/21

今日の讀賣新聞夕刊に「ラノベくらぶ」という記事が載っています。記事によれば、世界で一番応募者が多い新人小説賞は電撃小説大賞だそうですよ。

【投稿:藤本】


感謝!第三刷発行

2012/04/18

当会が刊行した「ライトノベル研究序説」の第三刷が発行されます。

今後、随時流通する予定となっております。
これからも、御愛読いただければ幸いです。

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【文責:山口】


橋本紡、ラノベの現状について「エロを書けば売れる」と発言

2012/04/17

以下は、ライトノベル作家・橋本紡氏がツイッターアカウントで行ったやりとりです。

まず、橋本氏の問題提起

https://twitter.com/#!/tsumugu_h/status/191940236673159168

 続いて、読者からこのような質問がありました。

https://twitter.com/#!/Quesera_O/status/191942358709977089

 それに対する橋本氏の回答。

https://twitter.com/#!/tsumugu_h/status/191946788457021440

 橋本氏の発言は、ライトノベルの現状に一石を投じるものだと思います。

【投稿:藤本】

 

 

 


『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』を巡り脅迫事件発生

2012/04/13

詳細は下記の産經新聞及び毎日新聞の記事を参照されたし。

http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/120412/crm12041220090023-n1.htm

http://mainichi.jp/select/news/20120413k0000m040056000c.html

尚、犯人は32歳の無職男性。32歳にもなってこんなことやってるのはどうかと思うが。

【投稿:藤本】


「これがホントの『禁書目録』!?」

2012/04/12

知人に教えてもらった「スチームパンク大百科」というサイトが個人的に大変面白かったです。
どのようなサイトかといいますと、

真鍮や歯車あふれるレトロフューチャーな世界を夢見る管理人・麻理が、書斎をスチームパンク風に改造する計画の記録、及びスチームパンク的作品、グッズの紹介、コラムなど

という趣旨のサイトで、モノ作りが本業な私としては、とても心ときめく内容ばかりでした。

で、その中に「「これがホントの『禁書目録』!?」皮革装丁番外編」という記事がありました。
http://steampunk.seesaa.net/article/185607560.html

ライトノベルも、装丁が変わるとやはりイメージがかわりますね。

 

【文責:山口】


【紹介】ラノベ論の書籍2冊が発売

2012/04/12

アニメ版『アクセル・ワールド』で黒雪姫先輩とハルユキのブタアバターの可愛さに悶え、アニメ版『這いよれ!ニャル子さん』のOP中毒が発症しそうな今日この頃、皆様いかがお過ごしでしょうか。10日は電撃文庫の発売日だったこともあり、4月新刊をせっせと読み進めている方も多いと思われます。そうした話題で盛り上がるなか、なんと2冊のラノベ本が同時期(10日(火)と12日(木))に発売となります。興味のある方はぜひチェックしてみてください。ちなみに私は両方購入予定です。

飯田一史『ベストセラー・ライトノベルのしくみ キャラクター小説の競争戦略』(青土社)

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『生徒会の一存』『バカとテストと召喚獣』『とらドラ!』『ゼロの使い魔』『とある魔術の禁書目録』『鋼殻のレギオス』そして『涼宮ハルヒの憂鬱』・・・・・・。 シリーズ累計で数百万部を売り上げ、いまもっとも読者を獲得しているジャンルであるライトノベルから、作品論、メディア論、顧客分析、競争環境分析を駆使して、市場で勝つ戦略までを解き明かす。 Amazonランキングで1位になったライトノベル作品を徹底分析。
(引用元:青土社HP-ベストセラー・ライトノベルのしくみ)

泉子 K・メイナード『ライトノベル表現論: 会話・創造・遊びのディスコースの考察』(明治書院)

ライトノベル表現論: 会話・創造・遊びのディスコースの考察 ライトノベル表現論: 会話・創造・遊びのディスコースの考察
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2000年以降、読者を増やし続けているライトノベル。このライトノベルの文体や表現の特徴とは何か。どのような表現方法を駆使してどのような効果を狙い、読者にどうアピールしているのか。その過程で日本語がどのような姿で創造・消費されるようになってきたのか。この書き言葉のディスコースの中で起こる現象に焦点をあて、多角的な分析を試みる。現代の日本、特にポピュラーカルチャーの世界で、日本語はどのような機能を果たしているのか、今私たちの生きる言語文化をライトノベルから読み解く。

第1章 ライトノベルという現象
第2章 ライトノベル表現の概観
第3章 考察の枠組みとデータ
第4章 会話のスタイル
第5章 語りのスタイル
第6章 語と談話の間
第7章 オノマトペの展開
第8章 表記の操作
第9章 レトリック効果
第10章 文章のビジュアル化
第11章 キャラクターのマルチモーダル展開
第12章 ライトノベル比較対照
第13章 ライトノベルの表現性
(引用元:明治書院HP-ライトノベル表現論 会話・創造・遊びのディスコースの考察)

【文責:山中】


讀賣新聞に『とある魔術の禁書目録』簡体字版

2012/04/02

本日の讀賣新聞朝刊に、角川書店が中華人民共和国で現地企業と共同で設立した企業に関する記事がありました。 記事には『とある魔術の禁書目録』の簡体字版の写真が載っており、帯には「1200万部」などと書かれていました(日本での売り上げを指しているのでしょう)。

【投稿:藤本】


キャノン電子(株)の社長室にライトノベル?

2012/04/01

先日、知人から『キャノン電子(株)代表取締役社長 酒巻久 氏が、ライトノベルを読んでいる』という話を聞きました。

『仕事をすぐやる人の習慣』(『THE21』編集部 編,PHP研究所)

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という本に掲載された酒巻氏のインタヴューでは、社会経験の擬似体験としての「読書」を推奨していて、酒巻氏も相当な多読・乱読派の様子。
インタヴューにつけられた写真には

社長室の本棚には、酒巻氏がこれまでに読んでいた大量の本が並べられていた。ジャンルは問わず、中にはライトノベルも。情報への貪欲さが判断のスピードを高めていく

というキャプションと共にライトノベルの表紙が並んでいました。並べられたラインナップは「キノの旅」「灼眼のシャナ」「狼と香辛料(原作及びコミック版)」「とらドラ!」「図書館戦争」の6冊。

酒巻氏は、読んだ本から学んだ事を必ず要点に整理してメモ帳に書きとめる習慣をお持ちとのことで、これらの作品からどのような事を学ばれたのか、気になります。(ラノベ研究者のはしくれとしては、図書館戦争とコミック版の狼と香辛料を除き、残る4冊が全て電撃文庫であることと、この説明だと図書館戦争もライトノベルと思われているのでは、という点も気になりました。)

【文責:山口】
※署名を入れ忘れておりました、失礼しました。