稲葉真弓氏について

2014/09/04

2014年8月30日、『エンドレスワルツ』『半島へ』等の作品で知られ、今年春には紫綬褒章を受けられた作家・稲葉真弓氏が、64歳で亡くなられました。5月の褒章受章、また同月発売の「新潮6月号」に随筆を寄稿されたばかりであったことから、多くの方々が驚かれたことと存じます。謹んでご冥福をお祈り申し上げます。

[参考] 【訃報】作家で詩人、稲葉真弓さん死去(msn産経ニュース)

この稲葉氏の訃報と時期を同じくして、主にインターネット上では、ある話題に関心が集まっていきました。それは前掲の「新潮6月号」に稲葉氏が寄稿していた随筆の内容です。

「私が〝覆面作家〟だったころ」と題されたこの随筆では、かつて稲葉氏が「倉田悠子」の変名を用い、覆面作家として小説を執筆されていた事実が語られていました。随筆の内容自体は、すでに「新潮6月号」の発売時点でニュースとなっていたようですが、Twitter等を見る限り、後になって知ったという方が私を含めて多かった模様です。

[参考] 「新潮」110周年で記念特大号(YOMIURI ONLINE)

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「倉田悠子」と聞いてピンと来る方は、10~20代の若い世代ではおそらく少ないかと思います。何しろ、同名義の小説が刊行されていたのは1980年代後半~90年代初頭が中心でしたし、現在は全て絶版となっていますから。特に有名な作品としては、1980年代に一世を風靡した美少女アニメ『くりいむレモン』シリーズのノベライズがあります。版元となったのは、富士見ファンタジア文庫や富士見L文庫で知られている富士見書房で、当時は富士見文庫から刊行されていました。

なお、「倉田悠子」名義の作品を刊行していた富士見文庫の一連のシリーズは、通称「富士見美少女文庫」と呼ばれており、現在のジュヴナイルポルノの先駆的存在とされています。「富士見美少女文庫」については以前にも紹介記事を投稿しており、また『コンテンツ文化史学会2012年大会予稿集』(2012年12月刊行)には大会発表時の予稿(「あの日見た文庫の存在意義を僕達はまだ知らない―八〇年代OVAノベライズの動向と富士見美少女文庫―」)を収録しておりますので、詳細はそちらをご参照下さい。

[参考] 『コンテンツ文化史学会2012年大会予稿集』(2012年12月刊行)
[参考] ラノベ史探訪(18)-「富士見美少女文庫」の名称はどこから来たのか?

さて、「富士見美少女文庫」からは1986~93年にかけて計30冊の作品が刊行されました。このうち「倉田悠子」名義の作品は19冊。ほぼ「倉田悠子文庫」と言っても過言ではない状況でした。 19冊のうち、さらに半分以上は『くりいむレモン』や『レモンエンジェル』等のノベライズですが、書き下ろしのオリジナル作品も含まれていました。前述の通り全て絶版となっていますが、国立国会図書館には蔵書があり、時々ですが「まんだらけ」等の中古書店で見かける機会もあります。

kuratayuuko「倉田悠子」名義の19作品書影

【「富士見美少女文庫」刊行の「倉田悠子」名義19冊】
①『旅立ち 亜美・終章 くりいむレモン亜美より』1986.06
②『SF超次元伝説ラル』1986.11
③『エスカレーション』1986.12
④『黒猫館』1987.04
⑤『いけないマコちゃん MAKO・セクシーシンフォニー』1987.04
⑥『麻衣・夏の扉』1987.07
⑦『サマーウィンド』1987.10
⑧『ジュラハンター・ケネス 霊女(シーラ)の誘惑』1987.12
⑨『レモンエンジェル 智のハートでノック』1988.06
⑩『レモンエンジェル えりかのバイバイ・ララバイ』1988.07
⑪『レモンエンジェル 美希のラブ・ラビリンス』1988.09
⑫『ジュラハンター・ケネス 魔狼の砦』1988.10
⑬『マイ・ソング 亜美それから』1988.12
⑭『ジュラハンター・ケネス キ・キララの妖女』1989.01
⑮『サイレント・レイク』1989.04
⑯『堕天使MITO』1989.06
⑰『MITO 真夜中のイブたち』1989.12
⑱『MITO OH・ハニー』1990.07
⑲『続 黒猫館』1993.03

*上記の他、2008年に河出書房新社から2冊を刊行した実績あり。

稲葉氏の随筆を見る限り、執筆スケジュールは結構ハードだった模様です(確かに2ヶ月連続刊行、あるいは1ヶ月2冊刊行しているケースもありました…)。売れ行きに関する正確な情報は未確認ですが、第1作目の『旅立ち 亜美・終章 くりいむレモン亜美より』は初版が1986年6月で、翌年6月には第五版までいっています。およそ2~3ヶ月に1回重版していますので、かなりのペースで売れていたのではないか?と推測されます。

ami1版違いの3冊(左から初版・四版・五版)

余談になりますが、今回の件に関する関連ツイートを確認していると、当時から読まれていた方、現在も思い入れが深い方が多いのだなと、あらためて感じた次第です。言及される機会は少ないものの、個人的には、歴史的にも内容的にも重要性が高い作品群だという認識です。すでに刊行から20年以上が経過し、当時を知る資料も散逸が目立つようになっていますが、今後も調査を進めながら状況を明らかにしたいと考えています。

機会があれば、ぜひご本人にお話をお伺いしたかったのですが…本当に残念でなりません。最後になりますが、稲葉真弓氏(倉田悠子氏)のご冥福をあらためてお祈り申し上げます。

【文責:山中】


【動画】和田敦彦×大橋崇行『読書の歴史の問い方~何のために問い、何が分かるか~』

2014/08/07

2014/7/19収録
『読書の歴史を問う 書物と読者の近代』(笠間書院)刊行記念トークセッション

和田敦彦(早稲田大学教授)
大橋崇行(作家、岐阜工業高等専門学校助教)

 

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【文責:山中】


【告知】7/11~電子書籍版『ライトノベル研究序説』(青弓社)の配信開始

2014/07/06

ライトノベル研究会が最初に刊行した研究書である、一柳廣孝・久米依子編『ライトノベル研究序説』(青弓社)が電子書籍として配信されることとなりました。配信開始予定は来週7/11(金)より。ご興味のある方はぜひチェックしてみて下さい。

【配信先例】
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ライトノベル研究序説 2014/07/11(金)00:00 配信予定

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【文責:山中】


【新刊情報】市川スガノ『ラノベが教えてくれる仕事で大切なこと―明日を良くする知恵と勇気と力をくれる名言45』(こう書房)

2014/07/03

2014年6月22日、こう書房から自己啓発本の新刊として、市川スガノ『ラノベが教えてくれる仕事で大切なこと―明日を良くする知恵と勇気と力をくれる名言45』が発売されました。

<目次>
1章 勇気!―自分と明日を変える勇気をくれる11の言葉
2章 仕事!―悩んだとき、失敗したとき、力が湧いてくる10の言葉
3章 他人!―人間関係に自信がモテる11の言葉
4章 人生!―生きていくための知恵が詰まった10の言葉
5章 これぞ名言!?―外すことのできないラノベ3大名言

もしかして、書籍としては本邦初!?
「ライトノベル」の名言集!
ラノベが好きな人、かつて親しんだ人、あんまり興味ないって人、ラノベって何?って人……
誰でもきっと、心にささる言葉がある。明日を変える力をくれる。
そんな珠玉の言葉集です。

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【文責:山中】


『S-Fマガジン』2014年6月号:特集「ジュヴナイルSF再評価」

2014/04/28

2014年4月25日に発売された『S-Fマガジン』2014年6月号の特集は「ジュヴナイルSF再評価」。三村美衣氏監修のもと、ジュヴナイルSFの現状についてまとめています。4月からアニメ放送がスタートした『魔法科高校の劣等生』の作者である佐島勤氏のインタビューも掲載。

ジュヴナイルSF再評価
眉村卓『ねらわれた学園』や筒井康隆『時をかける少女』など、ジュヴナイルSFの傑作は数多い。
近年では書き下ろしシリーズや、ライトノベル・レーベルからメディアミックスも込みでヒットする作品が出るなど、
さまざまに拡がるジュヴナイルSFの現状をまとめる。短篇競作、インタビュウ、対談、ブックガイドなどで構成する。監修:三村美衣
[特集内容]
○「タンポポの宇宙船」 藤崎慎吾
○「たとえ世界が変わっても」 片理 誠
○佐島勤インタビュウ インタビュアー&構成◎三村美衣
○対談「ハード・ジュヴナイルを求めて」 泉 信行×吉田隆一
○ジュヴナイルSF必読ガイド30選 卯月 鮎/香月祥宏/タニグチリウイチ 三村美衣=編

(早川オンライン:『S-Fマガジン』2014年6月号)

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ラノベ研に歴史あり。

2014/04/18

御無沙汰しております。ライトノベル研究会の山口です。

ライトノベル研究会は、会員同士の連絡にYahoo!グループのメーリングリストを利用していました。
先日、Yahoo!グループ機能が廃止になったことを受けて、これまでメーリングリスト上でやりとりされた
メールを保存しています。
これまで稼働していたのは、我々が『ライトノベル研究序説』を刊行した後に改めて作成した、
第二次ライトノベル研究会のメーリングリストなのですが、2010年5月から数えて、なんと1030通ものメールが飛び交っておりました。

今この記事を書いているブラウザの裏側で、それらのメールをすべてまとめてPDFに変換しているのですが、A4用紙にしてなんと5906ページに及びます。
読み返してみると、『研究序説』刊行後まもない時から、書籍第二弾(=すなわち、『ライトノベル・スタディーズ』に向けて走り出したことが思い出されます。

我々はこれから、「第三次ライトノベル研究会」に突入します。新しいメーリングリストが始まることはもちろんですが、会の運営組織体系も多少変化します。刺激的なやりとりが、きっとまた始まると思っています。

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映画『赤×ピンク』公開

2014/01/05

 今年2月に桜庭一樹原作の映画『赤×ピンク』が公開されます。こちらはその前売券です。
P1220215

【投稿:藤本】


桜庭一樹『GOSICK RED』刊行発表

2013/11/27

2003年に第一巻が刊行され、途中の休載期間を経た後、一般文芸化とアニメ化を軸とする大々的な復活を果たし、完結に至った桜庭一樹のGOSICKシリーズ。その変遷については、ライトノベル研究会の刊行した『ライトノベル・スタディーズ』にてまとめられています。

完結以後、動きを見せていなかったGOSICKですが、なんと新刊が発売されることが正式に発表されました。こちらが公式サイトになります。「『GOSICK RED』公式サイト

GOSICK RED
GOSICK RED 桜庭 一樹

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GOSICKのレーベルは今はなき富士見ミステリー文庫から角川文庫に移り、一般文芸化が進んでいましたが、Amazonの情報を見る限り、今度の新刊は単行本として発売されるようです。

GOSICKファンの一人として、ぜひとも早く手に入れたいです。

【文責:山口】


「このラノ 2014」刊行そして「ラノ好き」掲載!

2013/11/22

一年間のライトノベル業界を俯瞰する際の必読書『このライトノベルがすごい!』(通称「このラノ」)の最新号、『このライトノベルがすごい!2014』が刊行されました。今年は10周年という記念すべき号であり、単なるランキングにとどまらない、充実した情報が掲載されたムックとなっています。

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このライトノベルがすごい! 2014 『このライトノベルがすごい!』編集部宝島社 2013-11-20
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そしてなんと、今回掲載の「ライトノベルジャンル別ガイド」にて、ジャンル「ボーダーズ」の筆頭に、当会会員の大橋が執筆した『ライトノベルは好きですか?―ようこそ!ラノベ研究会』が掲載されました!

ライトノベルは好きですか?― ようこそ! ラノベ研究会
ライトノベルは好きですか?― ようこそ! ラノベ研究会 大橋 崇行 和遥 キナ雷鳥社 2013-04-12
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『このラノ』のジャンル別ガイドは、毎年分類が少しずつ変化していますが、「ボーダーズ」は創刊号(『このライトノベルがすごい!2005』)から続く、最古参のひとつ。「ボーダーズ」ジャンルの筆頭には、これまで以下のような錚々たる作品が掲げられています。この中に『ライトノベルは好きですか?』が並ぶのは、とてもすごいこと、と思います。

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我が呼び声に応えよ獣―魔術士オーフェンはぐれ旅 (富士見ファンタジア文庫) 秋田 禎信 草河 遊也

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【文責:山口】


「コンプティーク」創刊30周年に思う~『聖エルザクルセイダーズ』を忘れない~

2013/11/09

「艦これ」関連の話題が何かと熱い、今日この頃のKADOKAWA周辺。既に「艦これ」は、アニメ化、コミック化、ゲーム化、ラノベ化など、「これが私の全力全開!!」的なメディアミックスが決定しており、ファンブックやアンソロ集が続々刊行されるなど、KADOKAWAの次期主力コンテンツとしての地位を着々と築きつつありますね。「艦これ」付録が付いた「コンプティーク」10月号が重版を果たしたのは記憶に新しいですし、次はどんな展開が待っているのやら…。まあ全力全開な勢いも大事ですが、ぜひ誤植も全力回避でお願いしたい所です(汗)

さて、そんな「艦これ」で盛り上がるKADOKAWAの月刊誌「コンプティーク」の30周年新生記念号が、本日11月9日に発売となりました。10月号から続く「艦これ」の特集・付録、生誕25周年を迎える『ロードス島戦記』とTYPE-MOONのコラボなど、ファンにとっては見過ごせない内容ですね。また「創刊30周年記念企画 コンプ魂」では、創刊メンバーの対談や業界関係者のインタビューなど、「コンプティーク」の歴史を振り返る上で興味深い発言も掲載されています。10月号のように即日完売はないと思いますが、店頭で見かけた際は早めに入手した方がいいかもしれません。

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30周年新生記念号ということで、個人的には「「コンプティーク」の歴史について何か掲載されないかな?」と期待していました。これは上記の「創刊30周年記念企画 コンプ魂」で達成されたので特に問題はないのですが、一方で「やっぱりなぁ~」と思える点があったのも事実です。例えば『ロードス島戦記』とTYPE-MOONのコラボ企画内に掲載された解説付年表「琥珀さんたちと振り返るコンプティーク30年の歴史」。1980年代の欄に目を向けると、TRPG版『ロードス島戦記』の連載開始はもちろん、読者参加企画「ロボクラッシュ」「トップをねらえ!」まで記載があるものの、アノ作品への言及は残念ながら見受けられませんでした。簡略年表ゆえ仕方ないと分かってはいるのですが、このままだとアノ作品は完全に忘却されそうな気がしてなりません…。

あ、ちなみにアノ作品とはこれのことです。松枝蔵人『聖エルザクルセイダーズ』。かつての「コンプティーク」で連載されていた同作ですが、掲載期間は1987年4月号~88年12月号までで、ちょうど『ロードス島戦記』の第2部と同時期に誌面を飾っていました。Twitterなどで「懐かしいラノベ作品を教えろ」とか「初めて読んだラノベ作品は?」といった話題が出ると度々目にする作品ですので、もしかするとタイトルだけどこかで聞いた記憶があるかもしれません。

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では、なぜ『聖エルザクルセイダーズ』は忘却されてほしくないのか。その理由は、現在のライトノベルにとって黎明期とも言える1980年代後半にあって、同作が神坂一『スレイヤーズ』にも比肩する特徴的な作品であった点に見出すことが出来ます。詳細は、現在発売中のライトノベル研究会新刊『ライトノベル・スタディーズ』(青弓社)所収の拙稿「ライトノベル史再考―『聖エルザクルセイダーズ』に見る黎明期の様相から」で扱っていますのでご参照頂ければと思いますが、例えば作品消費の在り方など、現在に通じるところが多々見受けられます。具体例はいくつかあるものの、ここでは拙稿で扱いきれなかった興味深い事例を少々ご紹介したいと思います。


【聖地巡礼!?作品舞台を訪問する読者】

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1987年11月号の読者投稿欄より。連載に登場した「東郷記念公園」の現地写真を投稿した読者がいた模様。今も昔も、作品世界と接続可能な場に向かいたい心理は変わらないのかもしれません。

【抱き枕…ではない?等身大イラストを作成する猛者出現】
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1988年12月号の読者投稿欄より。『聖エルザクルセイダーズ』連載時にはキャラクターイラストの投稿が多数見受けられます。しかし、なかでもこれはインパクトが強く、著者自身まで登場して大きさを比較するという事態に。世が世なら、そのまま抱き枕カバーになりそうな代物です。

【キャラクターは作品を越えて…企業広告にちゃっかり登場】
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「コンプティーク」1988年1月号の巻頭広告(「このごろの斉藤さんのPC-88プライベートライフ!!」の一コマ)より。NECのPC-8800シリーズの広告を、『聖エルザクルセイダーズ』のイラスト担当であったBLACK POINT(伊東岳彦)氏が手がけた際に実現。現在では企業とのタイアップ広告をよく見かけますが、当時にあってはなかなか珍しかったのではないでしょうか(*「コンプティーク」限定掲載の広告であったかは調査中)。あ、そういえば『ラピュタ』のソーダ広告とかありましたか…。

1980年代後半の「コンプティーク」というと、どうしても同時期連載の『ロードス島戦記』に目が向きがちです。まして現在は、生誕25周年で様々な企画が進行中ですから仕方がない面はあります。しかし、実は上記のような作品が当時存在し、「コンプティーク」の歴史に、そしてライトノベルの歴史にも関わりがあったことを、創刊30周年という節目に気に留めて頂ければと思います。

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≪追記≫
『聖エルザクルセイダーズ』の連載を終えた松枝蔵人氏は、その後も「コンプティーク」で冒険アクションもの『パンゲア』の連載を手掛けていました。

パンゲア

マイナー度で言えば同作の方が高いかもしれません。どうかこちらも忘れないように…。

【文責:山中】