ライトノベル海外翻訳事情 台湾編(1)

英語、仏語、ハングルと進んだ「翻訳事情」ですが、勢いで中華圏に突入します。日本のサブカルチャー輸出地域として中華圏は、言及せざるをえない存在ですから。まずは好日文化というか好オタク文化の席巻する台湾から。

くだくだ書いていても仕方ないのでとっとと書いておきますが
「台湾においても、韓国と同様に日本のライトノベルはそのまんま出版されている」
と結論できます。以下に、示すのが日本での人気作品がどの程度翻訳されているのかを調べたリストです。韓国編のときに使った2003年下期から2008年上期のベスト30作品と、それに加えて2010下期〜2011上期
のベスト10作品を対象にしています。

表1.2003下期−2008上期
1.涼宮ハルヒ(スニーカー)->涼宮春日 台灣角川書店 KFN
2.キノの旅(電撃文庫)->奇諾之旅 台灣角川書店 KFN
3.フルメタル・パニック!(富士見ファンタジア文庫)->驚爆危機 台灣角川書店 KFN
4.戯言(講談社ノベルズ)->戯言系列(斬首循環) 尖端出版 レーベル不明
5.狼と香辛料(電撃文庫)->狼與辛香料 台灣角川書店 KFN
6.灼眼のシャナ(電撃文庫)->灼眼的夏娜 台灣角川書店 KFN
7.とらドラ!(電撃文庫)-> TIGER×DRAGON! 台灣角川書店 KFN
8.文学少女(ファミ通文庫)-> 
文學少女 尖端出版 浮文字
9.空ノ鐘の響く惑星で(電撃文庫)->天空之鐘響徹惑星 
台灣角川書店 KFN
10.終わりのクロニクル(電撃文庫)->終焉的年代記 台灣角川書店 KFN
11.とある魔術の禁書目録(電撃文庫)->魔法禁書目錄 台灣角川書店
12.半分の月がのぼる空(電撃文庫)->仰望半月的夜空 台灣角川書店
13.バッカーノ(電撃文庫)-> Baccano! 大騷動! 台灣角川書店
14.ゼロの使い魔(MF文庫J)->零之使魔 尖端出版 浮文字
15.されど罪人は竜と踊る(スニーカー)->罪人與龍共舞 尖端出版
16.バカとテストと召喚獣(ファミ通文庫)->笨蛋,測驗,召喚獸 尖端出版 浮文字
17.黄昏色の詠使い(富士見ファンタジア文庫)->黃昏色的詠使 台灣角川書店
18.ムシウタ(スニーカー)->蟲之歌 台灣角川書店
19.BLACK BLOOD BROTHERS(富士見ファンタジア文庫)-> BLACK BLOOD BROTHER 台灣角川書店
20.七姫物語(電撃文庫)->七姬物語 台灣角川書店
21.嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん(電撃文庫)->說謊的男孩與壞掉的女孩 台灣角川書店
22.悪魔のミカタ(電撃文庫)->恶魔同盟 台灣角川書店
23.デュラララ!!(電撃文庫)->無頭騎士異聞錄 DuRaRaRa!! 台灣角川書店
24.マリア様がみてる(コバルト文庫)->瑪莉亞的凝望 青文 Elite Novel
25.ウィザーズ・ブレイン(電撃文庫)->
26.砂糖菓子の弾丸は撃ち抜けない(富士見ミステリー文庫)->糖果子彈  台灣角川書店KFN
27.GOSICK(富士見ミステリー文庫)-> GOSICK 台灣角川書店
28.流血女神伝(コバルト文庫)->
29.人類は衰退しました(ガガガ文庫)->人類衰退之後 尖端出版 浮文字
30.銀盤カレイドスコープ(スーパーダッシュ文庫)->冰上萬花筒 青文

表2.2010下期〜2011上期
1.ソードアート・オンライン(電撃文庫)-> Sword Art Online刀劍神域 台灣角川書店
2.とある魔術の禁書目録(電撃文庫)->魔法禁書目錄 台灣角川書店
3.ベン・トー(スーパーダッシュ)->便·當 青文
4.円環少女(スニーカー)->
5.バカとテストと召喚獣(ファミ通文庫)->笨蛋,測驗,召喚獸 尖端出版 浮文字
6.僕は友達が少ない(MF文庫J)->我的朋友很少 尖端出版
7.丘ルトロジック(スニーカー)-> OCCULT LOGIC 超自然異象研究社 台灣角川書店
8.涼宮ハルヒ(驚愕)(スニーカー)->涼宮春日的驚愕 台灣角川書店
9.アイドライジング(電撃文庫)->
10.雨の日のアイリス(電撃文庫)->

一見して、台湾角川だらけですね。表中でKFNと表記したのはKadokawa Fantastic Novelsの略記です。よーく見るとKFNがついていない台湾角川の書籍もありますが、単に私が現物で確認していないというだけの話で、おそらく台湾角川はすべてのライトノベルをKadokawa Fantastic Novelsのレーベルで出しています。そもそも台湾にライトノベルを持ち込んだのが角川ですし、かなり戦略的な市場開拓に取り組んだと言われていますからこの強さも納得はできます。 他の出版社とレーベルについては、尖端出版の「浮文字」、青文のElite Novelが確認出来ました。(尖端出版なのに浮文字がついていないのは、これまた私が現物で確認していないだけです。)書影も並べておきましょう。

   (『バカとテストと召喚獣』)   (『灼眼のシャナ』)

 
(『終わりのクロニクル』)      (『狼と香辛料』)

この中で『バカとテストと召喚獣』が尖端出版の浮文字である他は、すべて台湾角川のKadokawa Fantastic Novelsですが、中身を見ても目立った差は見られません。カラー口絵にしても、イラストにしても、後書きにしても、ひたすら日本のオリジナルがそのまんま中国語に置き換えられているような印象です。ただ、本文ページに背景イラストが積極的に使われている点は、特記してよいかもしれません。例えば、『フルメタルパニック』の場合は見開き左ページの左肩にロゴ化されたタイトルが入っていますが、多くの台湾ライトノベルでこのスタイルは用いられています。

(フルメタルパニック)

それから『砂糖菓子の弾丸は打ち抜けない』の例では、左ページの左横に必ずイラストが添えられ、『灼眼のシャナ』の例では右下に、『空ノ鐘の響く惑星で』の例では2カ所にイラストが背景として添えられています。このようなレイアウトが多いことは確かなようです。

 (砂糖菓子) (シャナ)

(天ノ鐘)

なお、講談社はここでも独自路線を貫いていて、こうしたフォーマットとは異なる形態で出版していました。『戯言』シリーズは尖端出版が出していますが「浮文字」レーベルは用いられず、アメリカや韓国で見たのと同様に日本のオリジナルそのままでした。

最後になりますが、今回の中華圏の調査では『オタ中国人の憂鬱 怒れる中国人を脱力させる日本の萌え力』(武田ランダムハウスジャパン、2011)という著作と、『日中友好と書いてオタ活動と読む』(http://blog.livedoor.jp/kashikou/)というブログ連載で注目されている百元籠羊さんに、ご協力いただいています。最初は独力で繁体漢字を睨みながら台湾書籍のインターネット購入に挑んでいたのですが、どう考えても限界があったので、百元さんの指導を仰いだのです。面識も無いのにメールでの問い合わせに応じて快く導師役を引き受けていただきました。感謝感激です。この場を借りてお礼申し上げます。(百元籠羊さんの著作とブログについては、中国本土編で取り上げる予定です。)

(報告 太田)

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