ラノベ史探訪(18)-「富士見美少女文庫」の名称はどこから来たのか?

私事で恐縮ですが、12/15~16開催のコンテンツ文化史学会2012年大会にて、「あの日見た文庫の存在意義を僕達はまだ知らない―八〇年代OVAノベライズの動向と富士見美少女文庫―」というタイトルで発表をさせて頂きました。当日会場にお越し下さいました皆様、誠にありがとうございました。頂きました貴重なご意見は、ぜひ今後の調査・研究に生かしていきたいと考えております。何卒よろしくお願い申し上げます。

ところで、前掲の発表タイトルにある「富士見美少女文庫」について、ご存知の方はどのくらいいらっしゃいますでしょうか?刊行元はあの富士見書房なのですが、おそらく富士見ファンタジア文庫や角川スニーカー文庫などに比べれば、圧倒的に認知度は低いのではないかと…。何しろこのレーベルから作品が刊行されていたのは、1986~93年の7年間のみ(しかも1991~92年の間は刊行なし)。作品数も全30タイトルと決して多くはありませんでしたし、現在では絶版になっていますので、若い世代ほど目にする機会はなかったと思われます。

また、刊行作品の多くが1980年代から台頭してくるOVAの金字塔・美少女アニメ「くりいむレモン」シリーズのノベライズであったため、ライトノベルというより、むしろジュブナイルポルノのはしりとして一部に知られているのが現状でしょうか。

【Wikipedia:ジュブナイルポルノ
【Wikipedia:富士見書房

この「富士見美少女文庫」について再検証を試みたのが大会での発表内容となります。詳細は別の機会にと考えておりますが、今回の「ラノベ史探訪」では話のとっかかりとして、調査の過程で発見された興味深い資料の一部を紹介します。それはずばり「「富士見美少女文庫」の名称はどこから来たのか?」を考えるための資料です。

???

となってしまった方々、申し訳ありません。順を追って説明しますと、実はここまで何度も使用してきた「富士見美少女文庫」という名称は、レーベルの通称に近いものなのです。正式な名称は「富士見文庫」で、刊行作品の奥付や関連広告も同じ記載が見受けられます。ゆえに「富士見美少女文庫」の名称についてはひとまず、同時代あるいは後年に読者側が名付けたものではないか?と推測していました(考えられる由来:美少女アニメ「くりいむレモン」シリーズのノベライズが多かったことや、ノベライズ/オリジナル作品で「美少女キャラクター」の存在が強調されていたことなど…)。そうしたことを考えながら調査を進めていくうちに、名称の由来に関連しそうな資料が出てきたのです。

「富士見美少女文庫」は1987~88年にかけて、「クライマックスフェア」(全4回開催)という文庫フェアを実施していました。ちょうど原作OVAでは「新くりいむレモン」シリーズが発売された時期に当たり、連動する形で行われたのがこのフェアになります。

IMG_0002(「クライマックスフェアⅡ」の開催告知広告)

フェアの開催中、刊行作品には専用帯が付けられていました。そしてこの専用帯には、はっきりと「美少女文庫」の名称が記載されています。

IMG(「クライマックスフェアⅡ」のフェア専用帯)

この帯の記載から分かるのは、刊行元である富士見書房が「美少女文庫」という名称を意識的に命名・使用していた事実です。なお現時点では、「美少女文庫」(および「富士見美少女文庫」)という名称を使用した事例は他に発見されておらず、フェア開催前後で大々的かつ継続的に使用された名称であったかは不明です。ただ上掲の資料は、「「富士見美少女文庫」という名称が刊行元からもたらされた可能性」、あるいはこの名称が読者側の通称であった場合なら、「命名に対して一定の影響を刊行元が与えていた可能性」を考える示唆となるものであることは確かでしょう(*もしも当時の状況についてご存知の方がいらっしゃいましたら、コメント等でお知らせ頂けましたら幸いです)。

今後の調査で少しずつ実態が解明出来ればと思います。
以上、久しぶりの「ラノベ史探訪」でした。

《2012/12/19 追記》
当記事の通番に誤りがあったため修正致しました。正しくは第18回(ラノベ史探訪(18))となります。

《2013/01/14 追記》
「富士見美少女文庫」の名称を誰が命名したのか?については、現在も使用された当時の資料が未発見のため、版元によるものであったか否かは断定出来ない状態です。また別の可能性として、版元による「美少女文庫」という名称の使用を受けた読者側による命名であったことも考えられるかと思います。

《2013/01/19 追記》
記事中の表現を一部修正。

【文責:山中】

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8 Responses to ラノベ史探訪(18)-「富士見美少女文庫」の名称はどこから来たのか?

  1. tohri より:

    富士見ロマン文庫とかの海外ポルノ小説の出版社でしたからね。ファンタジア文庫が出た当時の富士見書房の目録をみると、ラインナップが面白い。鬼六先生のとかありますし

    • lnovelblog より:

      tohri様

      コメントを頂きありがとうございます。ライトノベル研究会の山中です。ご指摘頂きました通り、当時の富士見文庫には、富士見ロマン文庫や団鬼六作品などのポルノ小説がラインナップされていました。角川で出しづらいポルノ分野を富士見書房が担っていたとの話ありますので、そうした流れの中で富士見美少女文庫も刊行に至ったと推測されます。

  2. yoshimi より:

     「富士見美少女文庫」という一続きの言葉が固有名詞的に使われた実例は何か見つかりましたでしょうか?

     記事中のフェアの帯の写真ですが「美少女文庫」という言葉をSF文庫、ファンタジー文庫、ミステリー文庫、ポルノ文庫などの言葉のようにカテゴリー・ジャンルを形容するために一般的な言葉として使用したように見えます。
     もし「富士見美少女文庫」という単語が使われた証拠などがないのであれば、記事の情報は宣伝文句を記憶違いや勘違いでレーベル名と混同して「後年になって読者側が名付けたもの」という説を補強する情報だと捉えたほうが自然だと思います。

     自分が所有している1巻~25巻(上記フェアを挟んだ’86/6~’89/9発売)のうち1~24巻を確認しましたが、表紙・奥付・自社広告ページ・カバーはもちろん、2巻~24巻の初版の帯にも「美少女文庫」「富士見美少女文庫」の文字はありません。すべて「富士見文庫」と表記されています。(24巻と同時発売?の25巻はどこかに埋もれていて未確認です)

     記事によれば30タイトルまであるとのことですので26巻以降でレーベル名が変わった可能性は否定できませんが(角川文庫青帯→スニーカー文庫の例もありますし)そのような事実が出てくるまでは「富士見美少女文庫」は誤り、という結論にしておくのが妥当だと思いますがいかがでしょうか。

    • lnovelblog より:

      yoshimi様

      コメントを頂き、誠にありがとうございます。記事を執筆致しました山中と申します。

      まず「富士見美少女文庫」の名称を使用した実例につきましては、30タイトル及び関連広告を含めた調査を行いましたが、現時点では未発見の状態です。

      記事中で提示させて頂きました帯は、「美少女文庫」という名称を版元が使用していたことを裏付ける資料として扱っております。その上で「富士見美少女文庫」という名称をめぐっては、①未発見の資料で版元により使用された可能性、②版元による「美少女文庫」という名称の使用を受けて読者側が命名した可能性、の2つを想定していました。版元による命名という点は断定できないのが現状です。しかし記事中では、①のみ記載する形となっており、誤解を生みやすい内容であったことは否めません。

      貴重なご指摘を頂き、恐縮に存じます。

      • yoshimi より:

        山中様
        ご丁寧に回答どうもありがとうございます。
        以下は意見ではなく個人的感想です。

         富士見ファンタジア文庫創刊当時に「本当ならこれを富士見文庫という名前にしたかったんだろうなぁ」と周囲と話した記憶が残っているので、富士見文庫が現在富士見美少女文庫という名前で語られている事にびっくりしています。実在の証拠もないままWikipedia上で富士見美少女文庫という名称が記述されていることにも驚いています。興味ある人が少ないから突込みがないのか、事実として受け入れられている証左なのか。本来なら富士見文庫に訂正されてしかるべき事案だと思います。
         実際に公式に使われたとするなら可能性としてはレーベル名の変更ぐらいしか考えられないのですが、そのようなことがあれば何かの記録や誰かの記憶に残らないはずがないと思うのです。しかしコメント投稿後にネット上であれこれ見てみてみましたが30巻のタイトルを画像検索して出てきたカバー画像などを見ると名称変更の可能性もなさそうです。
         なので個人的には歴史の捏造を目の当たりにした気分です。(もちろん私の方にも確証はないのですが)

         素人考えではありますが、そのあたり出版社に問い合わせたりはしないのでしょうか。個人でそのような問い合わせははばかられますが、研究会としてなら真摯に回答いただけるのではないかなと。

      • lnovelblog より:

        yoshimi様

        引き続き、コメントを頂き恐縮に存じます。

        「富士見美少女文庫」の名称自体は記事中でもふれております通り、少なくとも現時点では、富士見文庫として刊行されていた特定の作品群(あるいは文庫内レーベル)の通称という認識です。一方でフェア中に見られた帯の記載に注目すると、版元がどこかで命名した可能性も捨てきれないという思いから、中間報告的な内容を記事にさせて頂きました次第です。したがって断定出来るような資料が発見されるまでは、公式名称と通称とを併記する等の配慮が必要かと存じます。

        今後も調査を継続していく所存ですが、版元への問い合わせも方法の一つとして検討中です。

  3. […] [参考] 『コンテンツ文化史学会2012年大会予稿集』(2012年12月刊行) [参考] ラノベ史探訪(18)-「富士見美少女文庫」の名称はどこから来たのか? […]

  4. […] ・ラノベ史探訪(18)-「富士見美少女文庫」の名称はどこから来たのか? […]

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