「コンプティーク」創刊30周年に思う~『聖エルザクルセイダーズ』を忘れない~

「艦これ」関連の話題が何かと熱い、今日この頃のKADOKAWA周辺。既に「艦これ」は、アニメ化、コミック化、ゲーム化、ラノベ化など、「これが私の全力全開!!」的なメディアミックスが決定しており、ファンブックやアンソロ集が続々刊行されるなど、KADOKAWAの次期主力コンテンツとしての地位を着々と築きつつありますね。「艦これ」付録が付いた「コンプティーク」10月号が重版を果たしたのは記憶に新しいですし、次はどんな展開が待っているのやら…。まあ全力全開な勢いも大事ですが、ぜひ誤植も全力回避でお願いしたい所です(汗)

さて、そんな「艦これ」で盛り上がるKADOKAWAの月刊誌「コンプティーク」の30周年新生記念号が、本日11月9日に発売となりました。10月号から続く「艦これ」の特集・付録、生誕25周年を迎える『ロードス島戦記』とTYPE-MOONのコラボなど、ファンにとっては見過ごせない内容ですね。また「創刊30周年記念企画 コンプ魂」では、創刊メンバーの対談や業界関係者のインタビューなど、「コンプティーク」の歴史を振り返る上で興味深い発言も掲載されています。10月号のように即日完売はないと思いますが、店頭で見かけた際は早めに入手した方がいいかもしれません。

コンプティーク 2013年 12月号 [雑誌] コンプティーク 2013年 12月号 [雑誌]

KADOKAWA 2013-11-09
売り上げランキング :

Amazonで詳しく見る by G-Tools

30周年新生記念号ということで、個人的には「「コンプティーク」の歴史について何か掲載されないかな?」と期待していました。これは上記の「創刊30周年記念企画 コンプ魂」で達成されたので特に問題はないのですが、一方で「やっぱりなぁ~」と思える点があったのも事実です。例えば『ロードス島戦記』とTYPE-MOONのコラボ企画内に掲載された解説付年表「琥珀さんたちと振り返るコンプティーク30年の歴史」。1980年代の欄に目を向けると、TRPG版『ロードス島戦記』の連載開始はもちろん、読者参加企画「ロボクラッシュ」「トップをねらえ!」まで記載があるものの、アノ作品への言及は残念ながら見受けられませんでした。簡略年表ゆえ仕方ないと分かってはいるのですが、このままだとアノ作品は完全に忘却されそうな気がしてなりません…。

あ、ちなみにアノ作品とはこれのことです。松枝蔵人『聖エルザクルセイダーズ』。かつての「コンプティーク」で連載されていた同作ですが、掲載期間は1987年4月号~88年12月号までで、ちょうど『ロードス島戦記』の第2部と同時期に誌面を飾っていました。Twitterなどで「懐かしいラノベ作品を教えろ」とか「初めて読んだラノベ作品は?」といった話題が出ると度々目にする作品ですので、もしかするとタイトルだけどこかで聞いた記憶があるかもしれません。

IMG2

IMG_0002

では、なぜ『聖エルザクルセイダーズ』は忘却されてほしくないのか。その理由は、現在のライトノベルにとって黎明期とも言える1980年代後半にあって、同作が神坂一『スレイヤーズ』にも比肩する特徴的な作品であった点に見出すことが出来ます。詳細は、現在発売中のライトノベル研究会新刊『ライトノベル・スタディーズ』(青弓社)所収の拙稿「ライトノベル史再考―『聖エルザクルセイダーズ』に見る黎明期の様相から」で扱っていますのでご参照頂ければと思いますが、例えば作品消費の在り方など、現在に通じるところが多々見受けられます。具体例はいくつかあるものの、ここでは拙稿で扱いきれなかった興味深い事例を少々ご紹介したいと思います。


【聖地巡礼!?作品舞台を訪問する読者】

IMG_0001

1987年11月号の読者投稿欄より。連載に登場した「東郷記念公園」の現地写真を投稿した読者がいた模様。今も昔も、作品世界と接続可能な場に向かいたい心理は変わらないのかもしれません。

【抱き枕…ではない?等身大イラストを作成する猛者出現】
IMG_0002

1988年12月号の読者投稿欄より。『聖エルザクルセイダーズ』連載時にはキャラクターイラストの投稿が多数見受けられます。しかし、なかでもこれはインパクトが強く、著者自身まで登場して大きさを比較するという事態に。世が世なら、そのまま抱き枕カバーになりそうな代物です。

【キャラクターは作品を越えて…企業広告にちゃっかり登場】
IMG_0003

「コンプティーク」1988年1月号の巻頭広告(「このごろの斉藤さんのPC-88プライベートライフ!!」の一コマ)より。NECのPC-8800シリーズの広告を、『聖エルザクルセイダーズ』のイラスト担当であったBLACK POINT(伊東岳彦)氏が手がけた際に実現。現在では企業とのタイアップ広告をよく見かけますが、当時にあってはなかなか珍しかったのではないでしょうか(*「コンプティーク」限定掲載の広告であったかは調査中)。あ、そういえば『ラピュタ』のソーダ広告とかありましたか…。

1980年代後半の「コンプティーク」というと、どうしても同時期連載の『ロードス島戦記』に目が向きがちです。まして現在は、生誕25周年で様々な企画が進行中ですから仕方がない面はあります。しかし、実は上記のような作品が当時存在し、「コンプティーク」の歴史に、そしてライトノベルの歴史にも関わりがあったことを、創刊30周年という節目に気に留めて頂ければと思います。

ライトノベル・スタディーズ ライトノベル・スタディーズ
一柳 廣孝 久米 依子

青弓社 2013-10-19
売り上げランキング : 75061

Amazonで詳しく見る by G-Tools

≪追記≫
『聖エルザクルセイダーズ』の連載を終えた松枝蔵人氏は、その後も「コンプティーク」で冒険アクションもの『パンゲア』の連載を手掛けていました。

パンゲア

マイナー度で言えば同作の方が高いかもしれません。どうかこちらも忘れないように…。

【文責:山中】

4 Responses to 「コンプティーク」創刊30周年に思う~『聖エルザクルセイダーズ』を忘れない~

  1. 保科徹 より:

    まだライトノベルという言葉はない時代、角川スニーカー文庫というレーベルがなかった中学時代。角川文庫の聖エルザを読んでコンプティークの存在を知った者です。かなり強く印象を受けた作品だったことと、このページを見つけて驚いたことが重なってコメントさせていただきます。
    記憶を辿ると、私の中で当事のそれらは「燃える」作品群だったと感じます。音は同じですが(笑)

    • lnovelblog より:

      保科徹さま

      はじめまして。ライトノベル研究会の山中と申します。この度は当記事をご覧頂き、また当時の状況に関するコメントを賜り、誠にありがとうございます。確かに『聖エルザ』には、「燃える」作品としての要素が十分にあったと私も感じます。物語展開はもちろんですが、個性的なキャラクター達の立ち回り・セリフ回しも印象的ですね。

  2. osa-n より:

    カセットブックや描き下ろし漫画もありましたね。
    アニメ化までこぎつけていれば、少しは扱いが変わってたかも?

コメントを残す