ラノベ史探訪(13)-SQ文庫を忘れない

SQ文庫。この名前を聞いてピンとくる方はどのくらいいらっしゃいますでしょうか。20代~30代のライトノベル読者ならぎりぎり大丈夫そうですが、10代ともなると「え、なにソレ?ジャンプSQが文庫レーベル始めたの!?」と考える方がいてもおかしくないかもしれません。何分もう存在していない文庫レーベルゆえ、若い世代の読者ほど馴染みが薄いと思われますので…。

正解は「スーパークエスト文庫」。1992年から2001年にかけて、小学館が刊行していたライトノベルレーベルです。小学館の、特に少年向けのライトノベルレーベルといえばガガガ文庫を思い浮かべるところですが、それ以前に存在していたレーベルがスーパークエスト文庫になります。

(スーパークエスト文庫のロゴ)

≪参考≫Wikipedia「スーパークエスト文庫」

レーベル自体の創刊は1992年6月。その特徴としてはWikipediaにも記載がある通り、オリジナル作品よりも、マンガ、アニメ、ゲームのノベライズ作品がラインナップの中心となっていた点でしょう。具体的には『超時空要塞マクロス』、『超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか』、『超時空要塞マクロスII -LOVERS AGAIN-』、『マクロスプラス』、『GS美神』、『BURAI』、『バトルファイターズ 餓狼伝説』、『ファイアーエムブレム』、『うしおととら』、『超時空世紀オーガス』、『新世紀GPXサイバーフォーミュラSAGA』、『ポケットモンスター』などなど、多種多様な作品がノベライズされていました。創刊告知の広告も見ても『マクロス』を猛プッシュしており、当初からノベライズ作品の刊行に比重が置かれていた様子をうかがい知ることができます。

(「週刊少年サンデー」1992年6月17日号掲載の広告)

(「月刊PCエンジン」1992年7月号掲載の広告)

さて、すでにWikipediaにも記載があるのですが、スーパークエスト文庫の特徴がノベライズ作品の刊行にあったという点に関連して、そのラインナップに特撮作品のノベライズが含まれている点も大きな特徴でした。最近では円谷プロが公認する小林雄次氏の『ウルトラマン妹』(スマッシュ文庫)や、東映が企画協力している大橋崇行氏の『妹がスーパー戦隊に就職しました』(スマッシュ文庫)など、にわかに「ラノベ×特撮×公認」が話題を呼んでいますが、過去にもノベライズという形をとってライトノベルレーベルから(無論公認で)刊行されたことがあったわけですね。また、これは後に紹介する刊行作品を見て頂ければ分かりますが、ノベライズ担当も錚々たる人物が名を連ねていまして…これだけの面子を揃えてしまったスーパークエスト文庫、恐ろしい子!!

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それでは手元にあるものを中心に、スーパークエスト文庫が刊行していた特撮作品のノベライズを紹介していきましょう。

(『ウルトラマンVol.1 ゴールドラッシュ作戦』/『ウルトラセブンVol.1 狙われた星』)

著者は『ウルトラマン』『ウルトラセブン』などのウルトラシリーズや映画『帝都物語』の監督として知られる実相寺昭雄氏。『ウルトラマンVol.1 ゴールドラッシュ作戦』(1993年10月)では円谷一夫氏が解説を、『ウルトラセブンVol.1 狙われた星』(1995年2月)では実相寺氏本人があとがきをそれぞれ書いています。実相寺氏のあとがき冒頭には、ノベライズにあたっての苦労とそこから見出された『ウルトラセブン』についての「発見」が以下のように綴られており、非常に興味深い内容となっています。

「ウルトラセブン」を小説化することは、そんなに難しいことではないだろう、とわたしは最初高をくくっていた。しかも、素材としては「狙われた町」の時に考えて、捨てたものが沢山あり、それを思い出せば、短時日で小説の一編は簡単に出来上がる、と思っていたのだ。注文を受けて、口笛を吹きたい心境で出発したのである。ところがいざ書き出してみると、自分の見当違いがわかり、前回に書いた「ウルトラマン―ゴールドラッシュ作戦」の時よりも、数倍の苦労をしてしまった。いろいろな理由があるけれど、その第一は、マンにくらべて、セブンではレギュラーの性格が希薄、グループ配剤の妙が不足、ということの発見である。大体ウルトラ・シリーズというものは、隊員たちの織り成すドラマ、という側面が大きいのだが、セブンの方はレギュラーの隊員達の性格設定が、マンにくらべて薄味だ、とここに至って発見したのだった。
(「あとがき」より引用:『ウルトラセブンVol.1 狙われた星』210頁)

(『ガメラVS不死鳥』/『ガメラ 大怪獣空中決戦』)

『ガメラVS不死鳥』(1995年5月)は「ガメラの産みの親」である脚本家の高橋二三氏が、『ガメラ 大怪獣空中決戦』(1995年6月)は『うる星やつら』や『機動警察パトレイバー』、映画『ガメラ 大怪獣空中決戦』(東宝・1995年)の脚本を担当した伊藤和典氏がそれぞれノベライズを担当しています。なお、後者のイラストは怪獣アートを手掛ける開田裕治氏と、劇場版『ガメラ 大怪獣空中決戦』で特技監督を務めた樋口真嗣氏が担当するというこれまた豪華な顔ぶれです。

(『小説ゴジラ』1993年12月)

映画第1作『ゴジラ』(東宝・1954年)と『ゴジラの逆襲』(東宝・1955年)の原作を復刻したもの。著者は小説家で『ゴジラ』の原作者としても知られる香山滋氏

(『ミラーマン 鏡の黙示録』1994年11月)

『ウルトラマンキッズ 母をたずねて3000万光年』のシリーズ構成を担当した野添梨麻氏がノベライズ。作品解説は『ミラーマン』放映当時の監督である満田かずほ氏が執筆。

(『ジェットマンVo.1~Vol.3』)

『鳥人戦隊ジェットマン』のノベライズ作品で、全3巻が刊行されていました。これはスーパー戦隊シリーズで唯一の小説単行本とのことです(Wikipedia「鳥人戦隊ジェットマン」)。一部で「トレンディー戦隊」「戦うトレンディドラマ」と呼ばれているだけに各巻のタイトルも秀逸で、『ジェットマンVol.1 俺に惚れろ!』、『ジェットマンVol.2 爆発する恋』、『ジェットマンVol.3 俺の胸で眠れ!』 など…。著者は『鳥人戦隊ジェットマン』のほか、『仮面ライダーアギト』『仮面ライダー555』『仮面ライダー響鬼』など平成ライダーの脚本を手掛けている井上敏樹氏。ちなみにこのシリーズはスーパークエスト文庫の中でもプレミア度が高く、まんだらけで5000円程度(3巻揃・帯付きの場合)で売られているのを以前見かけました。

このほか『仮面ライダー』のノベライズ作品もあるはずですが、現在手元にないため紹介は省きます。

以上のように、原作に関与している人物がノベライズを担当している場合が多いため、特撮好きにとってはたまらないラインナップと言えるでしょう。同時に、特撮関連の資料としても価値あるものだと思います。しかし、残念ながらすでに全て絶版となっているため、読むためには中古本で手に入れるか、国会図書館などを利用するしかない状態です。あとはガガガ文庫Rで復刻を期待する…のは色々な大人の事情で難しいかもしれませんね。ともあれ、こうした貴重な作品が刊行されていた事実を、今はなきスーパークエスト文庫の存在とともに忘れないでおきたいものです。

【文責:山中】

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