シンポジウム『ライトノベル研究の現在』:日本近代文学会東海支部第58回研究会(2017年3月4日)

2017/02/20

来る3月4日(土)、名古屋大学東山キャンパスにて、シンポジウム『ライトノベル研究の現在』(日本近代文学会東海支部・JSPS科研費「現代日本におけるメディア横断型コンテンツに関する発信および受容についての研究」共催シンポジウム)が開催されます。詳細は以下の通りです。

【趣旨説明】

2000年代半ばに大塚英志や東浩紀、新城カズマといった批評家、作家たちによって語られていたライトノベルは、一柳廣孝・久米依子編『ライトノベル研究序説』(青弓社、2009)以降、学術研究の対象としてこれらの作品群をどのように扱うのかについて、具体的な方向性が模索されるようになった。その中で、ライトノベルは小説としての問題だけではなく、マンガやアニメーション、実写映画、インターネット上の動画サイト、ポピュラー音楽など、さまざまなメディアとの関わりを踏まえて考える必要性が浮き彫りになっている。この他にもライトノベルの作品群には、多様な問題系が見いだされる。具体的には、児童文化とヤングアダルト文化との断続をめぐる問題、海外への広がりと翻訳、青少年文化におけるジェンダーのあり方、「ラノベ読み」と呼ばれる読者たちがインターネット上を中心に編成されてきたライトノベルの「歴史」をどのように検証するかなどである。また近年では、いわゆる「ライト文芸」の出現や、ライトノベルがweb小説、時代小説に接続したことを受けて、当初ライトノベルが想定していた中高生にとどまらない幅広い年代に読者が拡散した。その意味でライトノベルは、現代において編成されている物語を考える上で欠かせない作品群として、今なお成長し続けているのである。本シンポジウムでは、こうしたライトノベルの状況を見据えながら、研究の現在と、これからどのように現代の物語を論じることができるのかについて、その方向性を探っていく。フロアも交えた質疑も行うため、積極的な議論を期待したい。

【基調報告要旨】

接点としての児童文学
―如月かずさ作品を軸に

大島 丈志

児童文学作家如月かずさは、『ライトノベル・フロントライン』第2号(2016年)のインタビューの中で、幼少期からゲームを自作し、高校時代よりライトノベルを読み、創作にあたり、ライトノベルの文体を意識しているとする。同時に、日本児童文学者協会新人賞を受賞した『カエルの歌姫』(2011年)の受賞者コメントでは、「漫画やライトノベルではできない物語」(『日本児童文学』日本児童文学者協会、2012年8月)が創作の出発点と述べる。この点から如月がライトノベルと児童文学の境を意識した作家であることが分かる。 一方で、如月かずさの作品には、様々な「サブカルチャー」が内在している。『カエルの歌姫』は、中学生の性の揺らぎ、友達との日常を描く。さらに、ライトノベル・ゲーム・マンガといった「サブカルチャー」が作品内にちりばめられている。如月作品において、ライトノベルをはじめとする「サブカルチャー」がどのように内在しているのか、それらを使用することが、どのような世界観を生み出すのか。『カエルの歌姫』を軸にして、同時期に発表された他の如月の作品も参照しつつ読みといていく。

アニメ文化が育んだ文庫レーベルの〝位置〟
―「アニメージュ文庫」からみえるもの

山中 智省

徳間書店が発行する『アニメージュ』(1978年5月創刊)と言えば、日本を代表するアニメ雑誌の一つである。この雑誌と同じ名を冠する文庫レーベル「アニメージュ文庫」は、アニメ・ファンを想定読者として1982年12月に創刊された。当初のアニメージュ文庫は、内容の異なる5つの部門(NOVEL・CHARACTER・FILM・PEOPLE・THE BEST)を擁しており、『アニメージュ』との連携を図りつつ、多種多様な刊行物を世に送り出していた。例えば、アニメ作品のノベライズやオリジナル小説のほか、人気キャラクターの写真集、傑作アニメのフィルムブック、アニメーターや脚本家の自伝など、そのラインナップは多岐にわたる。さらに、アニメージュ文庫はアニメ文化との繋がりが強い文庫レーベルの性格上、視覚メディアと活字メディアに跨った作品展開・作品受容を促し、現代のメディア横断型コンテンツの発展にも寄与してきたと考えられる。本発表では、アニメージュ文庫が創刊された1980年代を中心にその実態と特徴を明らかにし、当時の児童文化・青少年文化、ならびに後のライトノベルに繋がっていく若年層向け小説の流れにおいて、どのように位置づけられるのかを考察していく。

ライトノベルの韓国語翻訳のあり方についての考察
―渡航のライトノベル『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』を中心に

田 泰昊

韓国での日本文学の受容は、1990年代の村上春樹のヒットから増え始め、2000年代からは若者層を中心に高い人気を得るようになっている。そのうち、ライトノベルの部数の増加は特に目立つものであり、2008年には韓国で翻訳された日本の小説全体の約50%を占めるほどになった。ただし、ライトノベルの場合、出版元の多くが、マンガやアニメ関連の出版社で、他の日本文学の翻訳の様相とは異なる場合があると見られる。例えば、翻訳者が既存の文学作品の翻訳者と異なり、元マンガ翻訳者であったり、翻訳の経験は皆無だがマンガやアニメに詳しい人であるという理由で担当になったりするケースがある。このような状況は翻訳の質や具体的な翻訳のあり方にも影響を及ぼすと考えられる。ライトノベルの翻訳に関する研究はすでに2点(허경숙 2010; 김애연 2012)あるが、これらの研究はあくまでも韓国の通訳翻訳大学院で行われたもので、主に翻訳の誤りを指摘し、正しい翻訳の例を提示することに止まっていた。そこで本発表では渡航のライトノベル『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』を中心に、実際の韓国語での翻訳がどのように行われているかを具体的に提示し、そこに見られる問題点について考察したい。

(以上、案内資料より引用)

【文責:山中】


フランス語ライトノベル翻訳のその後(2016)

2016/09/18

ここのところ、ライトノベルの英語翻訳からアメリカのヤングアダルト小説の話ばかりしていて他言語の話は放ってありました。先日、何気なく紀伊国屋のフランス語書籍の棚の横を歩いていたら、ライトノベルを見つけてしまいました!『狼と香辛料』『ソードアートオンライン』『ダンジョンで出会いを求めるのは間違っているだろうか?』『ログ・ホライゾン』が並んでいます。

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そういえば、フランス語訳の有無を調べてから4年以上が経過しました。あのときは、かなり悲惨な翻訳状況だったのですが、さすがに状況が進んでようです。調べてみると、OFELBEというライトノベル専門レーベルが立ち上がっているではありませんか。現在、発刊も含めれば、

  • DANMACHI   -La Légende des familias  (ダンジョンで出会いを求めるのは間違っているだろうか)
  • Durarara!! (デュラララ‼︎)
  • Log Horizon (ログ・ホライゾン)
  • Spice & Wolf (狼と香辛料)
  • Sword Art Online  (ソードアート・オンライン)
  • The Irregular at Magic High School  (魔法科高校の劣等生)

の6シリーズが扱われています。フランス語訳なのに英語のタイトルだらけなのは少し不思議に感じられるかもしれませんが、フランスのオタク達の主流は、まず英語で情報を得ているということの反映なのかもしれません。(一部には、日本語を直接読んでいるオタクもいますけど、、)DANMACHIというタイトルが笑えますけれど、これも英語のオタクの世界でDANMACHIという略称が広がっていたからだと思われます。また、母国語優遇政策をとってきたフランスでも、最近は英語のタイトルをそのままにしてフランス語訳するケースが結構ありますから、無理してタイトルをフランス語に訳すことも無いのでしょう。

(実は、イタリアでもライトノベルの専門レーベルが立ち上がっているのですが、そのあたりの報告はローマで『僕は友達が少ない』のイタリア語訳をゲットしてきた大橋さんの投稿を待ちたいと思います。)

さて、ライトノベルの英語翻訳について調べていく中で突き当たった「ヤングアダルト小説という壁」については、今までの連載の中で何回か触れてきました。ごく大雑把にまとめれば、「アメリカのヤングアダルト小説の中には、ライトノベルっぽい小説は既にあったので、アメリカの読者にとってライトノベルはさほど目新しいものには映らなかったのではないか。特に、初期の拙い翻訳文では既存のヤングアダルト小説に対抗できなかったのではないだろうか」というものです。ライトノベルにしてもヤングアダルトにしても、消費文化の行き着く先は似たようなことになるのではないか、というのが私の抱いた感想でした。

で、この推測はフランス語の世界でも成立するんだろうか?というのが、私が以前から抱いていた疑念でもあります。フランスにしても消費文化の伝統はアメリカや日本などよりも長く、爛熟したというか腐った文化を培ってきたわけですから。ロマン・アドレサン(Roman Adolescents)という10代の若者向け小説市場というのも成立しています。このあたりは、言語能力の壁があって中々調べられないでいるのですが、ネットで引っかかった面白そうな事例を紹介しておきます。

 

“Un Amour de Geek”(オタクの恋)41eogjsnc6l-_sx349_bo1204203200_

もう、そのまんまのタイトルですけど、Amazonに載っていたあらすじも、タイトルそのまんまです。

「トーマスはオタクだ。彼はこれまで、実生活にうごめく不愉快なことを避け続けてきた: 退屈な学校ではフランス語の先生がうんたらかんたら。彼が抱えた問題は、彼が恋に落ちたエステルである。 彼女は馬の背に飛び乗り、森の中の光を愛し、旅することを夢見ている。コンピューターが大嫌いなエステルは、彼がスクリーンにもう近寄らないと誓わなければ彼とはデートしないという。」(一部翻訳できなかったので誤魔化しました。)

中身の文章は読んでいませんが、「自分の世界に引きこもっている男の子が活動的な女の子に引っ張り回される」というテーマは実にラノベっぽい。

“Blind Spot”(ブラインド・スポット)

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日本趣味の本だけを出す独立系出版社らしいのですが、このシリーズは舞台が東京で日本人の女子高生Ayakoが目の障害を乗り越えて声優を目指すというお話。マンガに見えるかもしれませんが、小説です。これを見ながら、フィリピンで見た「ラノベっぽい少女小説」を思い出してしまいました。この本をフィリピンの書店の少女小説の棚に並べて置いておいても、なんの違和感もなさそうです。

日本が舞台で日本人が主人公の小説がフランスで書かかれているというのは、不思議な感じがするかもしれません。でも、まあ、日本の少女マンガだって、70年代頃まではアメリカやフランスを舞台にして、アメリカ人やフランス人を主人公にした作品が量産されていた訳です。(そんな時代は知らないという人は、ぜひ萩尾望都全集を参照ください。できれば忠津陽子あたりの、笑ってしまうぐらいチープなアメリカ学園ドラマも読んでいただきたいと思いますが、入手は困難かもしれません。)文化的な思い入れが激しくなると、こうした現象も多々起こるということなのでしょう。ご存知のようにフランスにおける日本趣味は長く続いており、マンガの世界では10年ほど前にやはり日本が舞台で日本人が主人公(女子高生のKiyoko)の”Pink Diarly“(ピンク・ダイアリー)という作品が現れています。

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この2作の事例を見ながら考えるのは、文芸の模倣は案外に簡単だということです。面白いと思った文芸を模倣して、自国の中に取り込んでしまう貪欲な力とでもいうのか。考えてみれば、アメリカのコミック文化を取り込んで成立したのが日本のマンガなのであれば、それが更に他国に取り込まれて咀嚼されてもなんの不思議もない訳です。フランス人が日本のアニメやマンガで馴染んだテーマやプロットを、そのまま小説で書くことも起こるでしょう。前掲の『ブラインド・スポット』なんていうのは、そういう例だと思います。そして、そのうちにフランス流に咀嚼された小説が書かれても不思議はないし、もうすでに書かれているかもしれない。そのとき、すでにある(前掲の『おたくの恋』のような)ロマン・アドレッサン小説とどれほどの違いが見られるのかというのは興味深い論点だと考えています。

(報告者:太田)


ライトノベルのようなアリス

2016/08/31

前回の報告で、ライトノベルから撤退したと思われていたSevenSeas社が『不思議の国のアリス』や『オズの魔法使い』をライトノベルの形式で出していたという話を書きましたが、先日何の気なしに調べてみたら、この話は昨年にネットに上がっていたし日本のアマゾンでも扱っていました。わざわざアメリカで見つける必要もなかったということで、報告者の不勉強を晒したということになります。だからという訳でもないんですが、実物を手にとって、もうちょっと詳しく紹介しておくことにしました。

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表紙はアニメ・マンガ風で、女の子の全身像。

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カラーの口絵が12ページ。

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本文の中に挿入されるマンガ風イラストもある。ということで、完全にライトノベルのフォーマットになっているんですが、ここであげたイラストは、オリジナルの『アリス』のイラストに対応していますね。『アリス』の挿絵で有名なのは初版のジョン・テニエルのもので、チェシャ猫だとかのキャラクターを決定づけた画家として有名です。テニエルの絵を収録している『アリス』を引っ張り出してきたのが、以下の写真ですが、同じ場面を絵にしているのが分かるかと思います。なお、英文はみた限り、オリジナルのまんまで、書き換えは無いようです。

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有名な、マッド・ティー・パティーの場面も対応していますけど、帽子屋がずいぶん若くてイケメンです。2010年の実写映画で帽子屋をやったジョニー・ディップが少し入ったんじゃないか、、、

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こんなふうにイラストの多くは、オリジナルの挿絵をマンガ風に書き直しているという印象を持ちました。もちろん、オリジナルにないイラストもあります。次の、穴に落ちて行くシーンはその一つですが、この構図は見覚えありませんか?私はどうしても思い出せないのですが、これが参照している(というかパクっている)絵が分かる方がいればお知らせください。

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さて、こういうイラストは誰が描いているんでしょう。イラストレーターの名前は裏表紙に書いてあったので、その”Kris Sisson”で検索してみたところ、フィリピンの男性(顔写真を見ると、結構おっさん臭いです)で、米国・フィリピン・シンガポールなどで活躍している人と知りました。

http://www.gunshiprevolution.com

http://isangkutsarangmoe.deviantart.com

http://www.pixiv.net/member.php?id=2858681

グローバルかつ、マイノリティからのリソース調達ということになります。米国における「日本風コンテンツ」の今後を考える上で、示唆的な事例のように思えました。

(報告者:太田)


アメリカの書店にて2016

2016/06/20

サンフランシスコに来たので、再びライトノベルやヤングアダルト小説の書店調査をやってみましたが、、、どうも街中の大型書店は片端から閉店してしまった模様です。個性的な書店は幾つも健在なんです。例えば、ビート文学の拠点になったCity Lights Bookstoreは今も健在で、本棚や飾ってある写真を眺めているのが本当に楽しくなる本屋ですが、ヤングアダルトの書棚はありませんでした。

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ビートの次に栄えたヒッピーの拠点になったヘイト・アシュベリー地区にも書棚が楽しい本屋がありましたが、グラフィックノベルは扱っていてもヤングアダルト小説の棚がない。

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やはり、ある程度の大型書店にならないとヤングアダルトの棚は設置されないのでしょうね。それがヤングアダルトの現状の位置というか市場規模なのではないかと思います。そして、そのような大型書店はどんどん潰れていき、サンフランシスコはその潮流の最先端を行っているということなのでしょう。

気をとりなおして、ジャパン・タウンの紀伊国屋書店に行きましたら、、、

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さすがにアメリカ西海岸における日本文化発信の拠点、日本語マンガがずらりと並び、アメリカのギーク(おたく)共が買い漁っています。そして日本語のライトノベルの棚もちゃんとあるのですが、英語で喋りながら、それらを抜き取ってはパラパラめくっているアメリカ人ギークたちの姿には、感慨深いものがありました。

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さて、「新着英語版ライトノベル」という棚もあったので、じっくり見ましたが、、、

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アメリカの学校はこの時期に夏休みに突入ということもあってか「夏の読書 メンバー20%割引」なんて紙まで貼ってありました。昔の日本の学生さんたちは夏休みに難しい本を読んだもんなんですが、、、

並んでいる本は、すでに一連の投稿でご報告したものばかりでしたが、ちょっとそこから外れたものもチラホラ。一つは菊地秀行が結構人気です。菊池に関しては、すでにVizメディアから”Another”が出ているのですが、『バンパイア・ハンターD』などのシリーズがDark Horse Booksというレーベルから出ていて、それがズラリと並んでいます。この5月に第23巻まで出ているらしく、成功したと言えそうです。

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このほかにも田中芳樹の『銀河英雄伝』があるし、VizのHaikasoruレーベルからも幾つか並んでいました。

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それも、『ハルヒ』と『デュララ!』の間に神林長平の本が並んでいたりするのです。IMG_9054

日本人の我々は、菊池秀行やHaikasoruから出ているSFやファンタジーをライトノベルには通常含めません。でも、アメリカ人読者はイラストの有無に関わらず、こういった小説をライトノベルとひとくくりにする傾向はあるみたいです。

また、Verticalという出版社が西尾維新の『傷物語』を出していました。DelReiで戯言シリーズを出して失敗した講談社は、新しい出版社でやり直しということなのでしょうか。

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もうひとつ驚いたのが、ライトノベルから撤退したと思われていたSeven Sees社が、『不思議の国のアリス』と『オズの魔法使い』をライトノベル化して出版していたことです!つまり、不思議の国のアリスのテキストをそのまま使って、アニメ・マンガ風表紙とイラストをつけた出版。日本からコンテンツを輸入するのを止めて、スタイルだけをもってきて英語の古典テキストをはめ込んだという本。

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実を言うと、マンガや小説は模倣が比較的簡単なので、コンテンツ輸入がある程度進むうちに、輸出先の自国産コンテンツがそれに取って代わるという事態もあり得るのではないかと思っていました。大塚英志などはかつて『「ジャパニメーション」はなぜ敗れるか』で、まさにそういう説を展開したことがあります。手描きアニメについては、アニメーターの集団としての技術とそれを育む文化の膨大な蓄積がものをいう世界なので、模倣の障壁はかなり高いと私は思っています。ですから、私は大塚の意見には全面的には与しません。しかし、ディズニーアニメのキャラクター造形が日本アニメに似てきたこと(キャラクターの目や瞳が昔に比べてかなり大きくなっています)や、宮崎アニメの影響が随所に見られるようになってきたことは、よく指摘されていることです。マンガ(アメリカ流に言えばグラフィック・ノベル)の場合は、相変わらず日本マンガの絵柄は広まりませんが、コマ割りの展開などは日本マンガに似せたものが出回るようになりました。言って見れば、日本からの輸入コンテンツが現地化したというか、消化されてきているのです。

それらに比べ、小説(テキスト)の模倣はかなり簡単です。現地化はそれほど困難とも思えません。何しろ、アメリカにはヤングアダルト小説というマーケットと作品群と作家たちがどんと控えているからです。彼らが、いったん「これはウケる」と確信しさえすれば、日本のライトノベルっぽい作品はあっという間にアメリカナイズされるのではないでしょうか。

ところが、今回のSevenSees社の戦略は、テキストの現地化などというまどろっこしいこともやめて、テキストを古典から引っ張ってライトノベルっぽく仕立てるという強引なもの。成功するような気はしませんけれど、コンテンツの輸出入という観点から、面白い事例だと思います。

(報告太田)


タイの書店にて(3)

2016/05/23

前回紹介した、バンコクの大手書店ですが、マンガはあまり見かけませんでした。マンガ本と活字の本の間には、敷居みたいなものがあるのかもしれません。そのマンガですが、道端の露天商ではよく見かけました。一冊50バーツですから、日本円にして150円くらい。

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これが、ライトノベルになると169バーツであったりしますから、一気に3倍になります。マンガより小説の方が価格がかなり高いというのは、ライトノベルの流通を考える上では考慮に入れておくべき背景だと思います。

東南アジアの国々は日本のコンビニが浸透していますが、中に入ってみるとバンコクでも地方都市でも少女小説をよく見かけました。写真のように、女性向けロマンス小説と「ライトノベルっぽい少女小説」が必ず置いてあります。しかし、ここで翻訳日本マンガを見たことはありません。タイの一般書籍の流通と、翻訳マンガの流通の違いについてはどこかで考えておくべき問題のように思えました。

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なお、その少女小説の横に、お坊さんマンガがよく並んでいたのは、仏教国家タイならではの風景かもしれません。

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(報告:太田)

この記事は、JSPS科学研究費補助金(挑戦的萌芽研究・15K12848「現代日本におけるメディア横断型コンテンツ
に関する発信および受容についての研究」/研究期間:平成27~29年度)の助成を受けた活動に基づいて執筆されています。


タイの書店にて(2)

2016/05/19
前回はアニメイトのバンコク店という、かなり濃い店の紹介をした訳ですが一般書店ではどうなっているのか。同じ地区の中のショッピングセンターには、幾つかの大型書店があるので、それらを訪ねました。
前回のフィリピンや多くの東南アジアの国とは異なり、タイは植民地化されたことがなく、近・現代を通じて王国が維持されたために言語もほぼ統一され、言語構成は比較的単純で書店の本はほぼタイ語です。(独自の言語を話す少数民族も残っていますけれど。)
B2Sという大手書店に入って、ティーン向けの棚に向かってみると、、少女小説が目立ちますねえ。
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翻訳ライトノベルの話は少し置いておいて、これらの少女小説を見ていると、フィリピン同様に大変にラノベっぽい。
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アニメ・マンガ風の表紙、カラーイラストページ、会話文の多さ、そういう観点からなんですが、なんとBLばかり集まった棚まであって平積みもいっぱい!
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この物量は一種壮観ですし、しかも店の中でもかなり目立つ位置にあります。タイの性規範が他国に比べて緩いということはよく言われる話ですが、それがこんな形でも現れているんだと、妙な感心をしてしまいました。
さて、少女小説をひとまず置いて、ティーン向け書籍を探査しているとライトノベルはやはり大量にありました。各レーベルが並んでいます。
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ここで、今回購入したライトノベルを上げておきますと、、、
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左上から右下にかけて、『僕は友達が少ない』『這いよれ!ニャル子さん』『Fate/Zero』『イリヤの空、UFOの夏』。日本で手に入りにくいレーベル(Luck)を2冊入れておいたという以外、ほとんど無作為のチョイスなんですが日本でも書店から消えたんじゃないかと思えるような本が、ぽんぽん出てくるのが面白い。
形態的には中台韓の翻訳同様、かなりオリジナルの体裁に近い書籍です。サイズも文庫本のものが主流。日本の文庫本ではもはや消えてしまった、縫込みされた紐の栞がついてます。
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さて、では少女小説と翻訳ライトノベル以外にはどんな書籍があるのか。どうも、タイ語オリジナルのライトノベルっぽい書籍も結構ある模様。たとえば、この”How to be Game Idol”(ゲームアイドルになる方法)という小説。折り込みカラーイラストにしても、会話体の多さにしても表紙から察せられる内容にしても、「いかにも」な感じです。著者名欄からみて、翻訳ではなさそうです。
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ソード・アート・オンライン系のお話なんでしょうか?そこはよく分かりませんけれど、ヴァーチャル・ワールドが舞台なのであれば、確かにタイ語でその種の小説が書かれても何の不思議もありません。いや、学校・学園小説にしたって、タイにも学校がある以上、タイの書き手たちにハンディがあるとも思えません。戦後の日本で、アメリカから入ってきたSFに刺激されて日本のSF作家たちが育ったという話と似たようなことが、タイで起こってもまったく不思議はないのです。
他にも、ファンタジー系小説も一つの分野をなしているのですが、さらに中国っぽい小説が結構あります。具体的に言うと、漢字が表紙に書かれていたり(中身はあくまでもタイ語なんですが)、表紙に古めの中国人が描かれているような本です。これは、少女系恋愛小説っぽいのから、伝奇、武侠と男の子っぽいのまでレンジが広そうです。
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タイには、かなり昔から中国人が住んでいて、現在の華人系タイ人は一割ぐらいだろうと言われていますし、経済や文化の分野ではその数字以上に存在感があるとされています。そういう事情が反映しているのでしょうか。
ともかくも、女の子向け小説にしても男の子向け小説にしても、タイには豊かなマーケットがもともとあって、そこにライトノベルであるとか、BL小説だとかが上手く根付いているんじゃないか。そんな気がしたことは確かです。あくまでも、私の主観的な感想の範囲ですが、、、
最後に、B2Sでの(おそらく)女の子向け小説のベストテンは以下のようなものらしいです。
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(報告:太田)

タイの書店にて(1)

2016/05/14

都合があり、タイに来ています。

タイでのライトノベルについては、ラノベ研の主催者の一人である山中先生が、タイ人留学生をインフォーマントとして調査を続けていて、結構な量の日本のライトノベルが翻訳されていることは分かっているのですが、やはり現地で売られている現場を見ておきたい。バンコクで時間ができたので例によって、書店巡りということになりました。
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実は、この2月にアニメイト・バンコク支店が開店しています。大型ショッピングセンターの立ち並ぶサイアーム地区のマーブンクローン・センターの7階。行ってみると、同じフロアにはメイドカフェまであるではありませんか。アニメイト前には座り込んで何やらやっている一団も。コスプレをしている?
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日本語しか書いていない販促立て看などもあって、日本のダメな文化が着々とタイを侵食中なのは、よく理解できました。
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店内、マンガに並んでライトノベルが棚いっぱいに並んでいました。原語の日本語と、タイ語翻訳のものがそれぞれに別の棚で並んでいます。
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山中先生の踏査によれば十近いレーベルから1000点以上の作品が翻訳されているというのですが、まあ納得できる物量です。そして、ここまであれば、「片っ端から翻訳されている」という感じにはなります。
ということでタイに日本ライトノベルの翻訳が大量にやって来ていることは、アニメイトに来れば大変によく分かります。ただ、「おたく」に特化した店ではなくて、フツーの店ではどうなのか?次回は、そこらあたりを報告してみたいのですが、帰国してからの投稿になるかもしれません。
(報告:太田)

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