ラノベ史探訪(8)-新刊に挟まっている「アレ」の話

唐突ですが質問です。ライトノベルの新刊を買うと中に必ず挟まっているものといえば、なんでしょう?「しおり!」「売上げカード!」「アンケート葉書!」とお答え頂いた方々、もちろん正解です。しかし、あともうひとつ、存在としては一番目立つ「アレ」が残っています。そう、それは「新刊案内の小冊子」です。「なんだ、ただの広告じゃん」と思われる方もおられるかもしれませんが、一口に新刊案内と言っても、ライトノベルレーベルが各々独自に発行しているため非常にバラエティー豊かです。

(各レーベルの新刊案内 2011年12月版)

電撃文庫の「電撃の缶詰」、角川スニーカー文庫の「ザッツすにすに」、富士見ファンタジア文庫の「FunFunファンタジア」、ファミ通文庫の「FBN(FamitsuBunkoNews)」、MF文庫Jの「その名もJ」、集英社スーパーダッシュ文庫の「superdash navi」、GA文庫の「ジーエーえくすぷろ~らぁ」、HJ文庫の「HJ日和」、小学館ガガガ文庫の「ガ報」…。こうして列挙してみると、あらためてその種類の多さに驚かされます。内容も新刊の紹介からメディアミックス情報の掲載まで多岐にわたり、最近の「電撃の缶詰」では電撃作家のインタビューを掲載しています。

さて、たびたびの質問で恐縮なのですが…あなたならこの新刊案内、保管しておきますか?それとも捨ててしまいますか?スタンスは人それぞれですが、個人的には保管しておくことを強くお勧めします。なぜなら、現在のレーベル動向を把握する上でも、あるいは過去の作品をふり返る上でも、新刊案内は有用な資料になり得るからです。時間を掛けて数が集まれば、作品傾向やイラストの変遷、フェアや新人賞の動向など、ライトノベルの歴史を通事的・共時的に把握する際の手掛かりになるでしょう。また作家のインタビューやコラム、書下ろし短編が掲載されている場合、再録のないまま「そこでしか見ることができないもの」になってしまう例も少なくありません(『ブギーポップは笑わない』の「竹泡対談」など)。その意味でも保管しておいて決して損はないと思います。

例えば「電撃の缶詰」の場合、創刊号から現在までの変化を追うだけでも興味深いことが分かります。なお、手元の資料の関係上、かなり大雑把な比較になってしまうことはご容赦下さい。

(「電撃の缶詰」創刊号 / イラスト:栗橋伸祐)

(「電撃の缶詰」創刊号 見開き①)

(「電撃の缶詰」創刊号 見開き②)

創刊号では、コラム「本のお話」の第1回としてあかほりさとる氏の「私の心に残るイイ本」(紹介したのは意外にも?国語の教科書で載っていたという芥川龍之介『羅生門』と中島敦『山月記』)、深沢美潮氏のショートストーリー「フェアリーとコロボックル」をはじめ、創刊号らしく作家からのお祝いメッセージが掲載されています。読者投稿コーナー「電撃POST」も創設するなど、新刊案内というよりもフリーペーパーマガジンのような趣が…。それもそのはずで、表紙をよく見れば「小さくてもピリリ!な電撃情報折込誌」というキャッチフレーズがあります。単なる広告ではなくれっきとした情報誌、というわけですね。

(「電撃の缶詰」1998年12月 / イラスト:椎名優)

(「電撃の缶詰」1998年12月 見開き①)

(「電撃の缶詰」1998年12月 見開き②)

ちょうど『ブギーポップ・イン・ザ・ミラー「パンドラ」』や『E・Gコンバット2nd』が出た頃の「電撃の缶詰」です。見開き②を見ると、ほぼ全面に新刊案内、下の方に発売カレンダーである「電撃すけじゅーる閻魔帖」を掲載しています。読者投稿コーナーも健在で、名称が「電撃POST」から「でんげき丼」に変わっています。

(「電撃の缶詰」2002年2月 / イラスト:緒方剛志)

(「電撃の缶詰」2002年2月 見開き①)

(「電撃の缶詰」2002年2月 見開き②)

「電撃の缶詰」創刊100号記念のカラー版です。時期的には第8回電撃ゲーム小説大賞作品が発売された頃です。やはりカラーですと見開きのイラストが映えますね。また100号特別企画として、深沢美潮氏の「新フォーチュン・クエスト エピソード編 カシアス・ロッパ」が掲載されています。読者投稿コーナーがこの号には掲載されていませんが、詳細は不明です。ちなみに表紙のキャッチフレーズが「電撃の最新情報はココからげっと!」に変わっており、「電撃hp」にも見られたようにホームページのアドレスが記載されています。このあたりの変化はインターネットとの連携を重視していた「電撃hp」と同期を図っていたからかもしれません。

(「電撃の缶詰」2011年12月 / イラスト:石田可奈)

(「電撃の缶詰」2011年12月 見開き①)

(「電撃の缶詰」2011年12月 見開き②)

そして現在。見た目で分かるのは明らかな情報量の多さです。過去の「電撃の缶詰」と比較すると差は歴然でしょう。近年目立った刊行点数の増加やメディアミックスの活発化など、読者に伝えるべき情報が増えたゆえの必然でしょうか。

以上、本当にごく一部ではありますが「電撃の缶詰」の変遷を見てきました。可能であればさらに細かく追っていきたいところですが、やはり資料収集の難しさゆえに、なかなか実現していないのが現状です。

(電撃の缶詰コンプリート展の様子)

そういえば覚えていらっしゃる方も多いと思いますが、「電撃文庫 秋の祭典2010」で創刊当時から現在までの「電撃の缶詰」を集めた「電撃の缶詰コンプリート展」が行われました。コンプリートされた姿を見ること自体めったにないので、この展示は非常に貴重な機会だったっかと思います。そんな展示を眺めつつ私がふと考えたのは「なんとかこれらをアーカイブしてもらえないかなぁ~」ということでした。先にも書いた通り、きっとライトノベルの歴史を探る上で貴重な資料になるはずなので…悩ましいところです。

【文責:山中】

2 Responses to ラノベ史探訪(8)-新刊に挟まっている「アレ」の話

  1. […] ここで、以前「新刊案内の小冊子」を話題にした時と同じ質問になりますが…あなたならこの帯、保管しておきますか?それとも捨ててしまいますか?正直、帯が付いたままだと読みづらいと感じることもあるので、読みやすさ重視の方は捨ててしまうことが多いかもしれません。一方、キチンと折りたたんでページに挟んでおく方、付けたまま破れないよう大事に保管しておく方もいらっしゃるでしょう。 […]

  2. […] 「ラノベ史探訪(8)-新刊に挟まっている「アレ」の話」では、ライトノベルの新刊につきものな新刊案内の小冊子を話題にしましたが、今回はその続編となります。本当は「ラノベ史探訪(8)」の方で紹介しておきたかったのですが、「電撃の缶詰」を追うだけで力尽きてしまいまして…続編という形をとって再度取り上げることになった次第です。内容としては「電撃の缶詰」の時と同じく、角川スニーカー文庫(以下、スニーカー文庫)が発行する新刊案内について見ていきたいと思います。 […]

コメントを残す